予備自衛官雑事記

予備自衛官のあれやこれや

在日ウクライナ大使館の義勇兵募集について

※記事の内容は投稿日現在のものです。また、筆者は外国語が不得手である為、間違いがある可能性もあります。その場合はコメントにて指摘いただけると助かります。

 

 ロシア軍のウクライナ侵攻に伴い、在日ウクライナ大使館がツイッターでボランティア(義勇兵)を募集しています。

 

 

 

 募集条件は「自衛隊経験など、専門的な訓練の経験」等という事です(他にも条件はあるみたいだが公式に出されている情報はこれだけ)。

 

 さて、この義勇兵募集に関してネット上では色々な情報が飛び交っています。曰く・・・。

 

  • 義勇兵は非正規兵なので捕虜になって拷問されたり処刑されても文句は言えない。

 

 

  • 義勇兵になることは私戦予備及び陰謀罪(刑法第93条)に該当し逮捕される。

 

 とりあえず、説明しますと今回募集がかけられているのはウクライナ領土防衛軍(Territorial Defence Forces メディアによって領土防衛部隊、領土防衛隊など表記の差異有)の外国人軍団要員です。

 

 領土防衛軍とは軍人および民間人志願者(パートタイムの兵隊)から構成される予備役部隊で、ウクライナの行政地区ごとに編成されています。ネット上では制度の詳細までは調べられなかったのですが、ウクライナ領土防衛軍を参考に設立されたポーランド領土防衛軍について以前調べた記事がありますので興味ある方はそちらを参照して下さい。我が国で言うと予備自衛官補制度が近いでしょうか。

 

 今回の義勇兵募集は、この領土防衛軍に外国人が参加できる部隊を設立するということらしいです。

 

 領土防衛軍はウクライナ政府軍の正式な部隊であり、私的な民兵組織ではありません。外国人が参加した場合は領土防衛軍の正式な兵士として登録されるであろうことから、傭兵扱いされて捕虜の待遇を受けられないということはありません。また義勇兵といえども交戦資格者の条件を満たせば捕虜となる権利を持つことになりますので捕まったらいきなり銃殺されるなんてこともありません(ロシア軍や親ロシア派が国際法を守れば・・・の話ですが)。

 

 さらに、義勇兵になると私戦予備及び陰謀罪(刑法第93条)に該当し逮捕されるという点ですが、これは令和元年にイスラム国に参加しようとした大学生らに対して適用されたことが念頭にあると思います(ただし最終的には不起訴処分)。

 

 この刑法93条については判例等もなく義勇兵に志願することが該当するかどうかは分かりません。但し、これまで何人もの日本人がフランス外人部隊アメリカ軍に入隊し、実戦を経験してきたにもかかわらず摘発された事例がないという事を考えると、今回のウクライナ軍の件だけを取り上げて罰するというのは如何なものかと感じます。

 

 ウクライナ政府とは関係なく勝手にロシアと戦いに行くとかならまだ適用出来る余地はあると思うのですが、今回募集しているのはウクライナ政府軍が運用する正式な部隊です。

 

 ただ、この法律は判例がないだけに幅広い解釈で運用が可能であるとも言え、国の方針により一気に締め付けが厳しくなる可能性もあります。

 

 前述のイスラム国の場合は放置すれば日本の国益を大きく毀損するため逮捕という決断を下したと考えられます。一方でフランス外人部隊にしろアメリカ軍にしろ基本的には日本の友好国であり、その軍隊に日本人が入隊して戦闘に参加しても実害はないと政府が判断し放置されていただけとも考えられるのです。

 

 よってもし今の政府が、ウクライナの戦争に日本人が参加してロシアに必要以上の刺激を与えたくないとか、とりあえず外交的トラブルになりそうな活動は一切させたくない等と考えた場合は、志願者に対する何らかの干渉もしくは取り締まりが行われる可能性もあるでしょう。一方でさしたる影響もないと考えれば容認される可能性が高いと考えられます。

 

 最後に在日ウクライナ大使館が日本国内で義勇兵を募集することの可否についてですが、既に在日フランス大使館がホームページで外人部隊の募集要項を掲載しているという例があり、日本政府はこれを特に問題としていません。

 

 前述の通り、今回の募集は義勇兵と銘打ってますが、実態はフランス外人部隊と同様に、ウクライナ軍の正規要員の募集です。これが傭兵の募集となると問題になる可能性はありますが(ウクライナは「傭兵の募集、使用、資金供与及び訓練を禁止する条約」の批准国)、今回はそうではありません。

 

 とは言ったものの、正直なところ日本政府のさじ加減一つで可にも不可にもなると考えられます。国内法的に問題が無くとも日本政府から“自粛”を要請された場合、在日ウクライナ大使館としても従わざるを得ないでしょう。何かあれば在日ウクライナ大使館の公式ツイッター等に情報があがると思われますので興味のある方は今後の動きに注目です。