予備自衛官雑事記

予備自衛官のあれやこれや

採用年齢を引き上げるのは良いとして・・・

※当記事は公開情報を元に支障のない範囲で記述しておりますが、もし問題がある個所がありましたら筆者まで一報頂ければ幸いです。また記事の内容は投稿日現在のものです。

 

 予備自衛官補(一般)の採用年齢上限が52歳未満まで引き上げられるとの事。

 

www.mod.go.jp

 

 今後何かしら追加情報が発表されるのかもしれないが、とりあえずは今出ている情報だけで所感を述べてみたい。

 

 年齢の引き上げ自体は良い事かと思うが、それだけだと50代の予備2士が誕生する可能性もある。有事にどのような運用をするつもりなのだろうか。

 

 有事における予備自衛官の主任務は駐屯地等の後方警備だが、その中でも2士がやる仕事は部隊末端としての歩哨が主である。常備自衛官ならば10代~20代前半の陸士がやる仕事だ。勿論、不審者や敵が侵入してきた場合、制圧する事も任務に含まれているわけで、こう言っては何だが“老兵”には荷が重すぎるのではないか。

 

 或いは駐屯地の恒常業務で事務仕事や整備をやらせようというのか。それとも定員割れしている(もしくは訓練を修了して任官する人数が少ない)のでともかく志願者を多く集めて充足率を上げたいと言う事だろうか。

 

 確かに有事となれば人はいくらいても足りなくなるだろうが、現行の予備自衛官補制度を採用年齢上限だけ緩和しても合理的な人材運用にはならないのではないかと思う。今回の上限緩和で新たに対象となる年代は30代中頃から50代前半にかけてだが、既に体力の全盛期を過ぎており“兵隊”としての能力は低い。この年代が一般社会で求められるのは監督職、管理職としての能力であり、自衛隊側としてもそれだけの能力を持った人材を期待し、尚且つ2士にするのではなくて相当な待遇を用意すべきだろう。

 

 例えば民間会社で経理の課長をやっていた人物を予備自衛官補(一般)として採用し、2士に任官させて駐屯地の警備に従事させるとしたら、それはまさに人材の浪費としか言いようがない。民間会社での地位と能力・経験を考慮して適切な教育を行い、相応の階級で会計業務に就かせるべきだ。

 

 そのために、最初は任官者全員が予備2士になるのは仕方ないとしても、例えば予備陸曹候補生試験や予備幹部候補生試験の様なコースを用意して、希望する者は学歴や本業での能力を考慮した上で選抜し、より上位の階級に進めるような制度を用意すべきではないか。ちなみにポーランドの領土防衛軍(パートタイマーの軍人による郷土防衛部隊)では下士官や将校の養成コースが用意されている。

 

 予備自衛官等制度では一定の国家資格・公的資格保持者を除き自衛隊以外での職歴、学歴は階級に影響しない(有事に招集された際の俸給算定に影響する場合がある程度)。昇進についても国家資格等による昇進を除き技能や能力ではなく訓練出頭日数に寄るところが大きい。

 

 だが会社である程度の地位にあり、マネジメントの経験を持つ中年世代が、予備自衛官補(一般)の採用試験に受かり、本業との兼ね合いに苦労しつつ50日の教育訓練を修了して任官できるのが予備2士というのでは、魅力的と言えるだろうか。しかも昇進に必要な期間は長く、自身の能力はほぼ関係ない。

 

 防衛省自衛隊側としては訓練日数が制限される以上、短期間で陸曹や幹部に必要な能力を付与することは出来ないと考えているかもしれないが、予備自衛官補の訓練にeラーニングが導入され、また一般財団法人防衛支援事業団など防衛省の業務を部外委託できる組織がある現在、工夫しだいによって訓練機会を増やすことは可能だろう。夜間大学の様に平日の夜や休日に地本等の施設を利用して防衛支援事業団職員を講師として座学を行うなど、やりようはいくらでもあると思う。また若年層の予備自衛官についてもこのように教育の機会が増えれば能力とモチベーションの向上につながるだろう。

 

 もっとも、防衛省自衛隊の意図が「ともかく充足率を上げるために年代はどうでもいいから頭数を集めたい」というのであれば、こんなことをやってる場合ではないのかもしれないが・・・。