予備自衛官雑事記

予備自衛官のあれやこれや

改めて本業が公務員の予備自衛官について防衛省が改善した方が良い点を考えてみる

※当記事は公開情報を元に支障のない範囲で記述しておりますが、もし問題がある個所がありましたら筆者まで一報頂ければ幸いです。また記事の内容は投稿日現在のものです。

 

 令和5年度防衛省行政事業レビューを始めとして近々に公表された防衛省の各種資料では予備自衛官等制度について抜本的な制度の見直し、体制の強化を図ると明言されており、実際に防衛省内では作業が進んでいると考えられる。

 

 一方、予備自衛官等を兼ねる国家公務員、地方公務員について防衛省はこれまで「国家公務員等が予備自衛官補を兼ねる場合の教育訓練招集手当の支給について(通知)(平成27年3月31日防人育第5841号)」、「予備自衛官等を兼ねる国家公務員等が訓練招集等に応じた場合の勤務先である所轄庁の取扱いについて(通知)(令和元年防人育第4666号)」等によって運用の整理を図ってきたところである。

 

 また、令和5年7月12日に公表された「人的基盤の強化に関する有識者検討会」による報告書では「公務員が訓練等に応じて、平素の勤務先を離れる場合、給与が減額されるため有給休暇を取得」(第4回会議資料2の16ページ)が重点検討項目として挙げられており、国家公務員、地方公務員の予備自衛官等に関する問題点について防衛省側もある程度は把握しているのであろう。

 

 公務員の予備自衛官についてはこれまでも何回か記事にしてきたが、今回は法令・規則・制度等で改善して欲しい点についてまとめていきたいと思う。

 

 まず、第一点は「消防団を中核とした地域防災力の充実強化に関する法律(以下、消防団充実強化法)」の予備自衛官版を作ってほしいという事。この法律では公務員が消防団員を兼ねる事について以下のように規定している。

 

(公務員の消防団員との兼職に関する特例)

第十条 一般職の国家公務員又は一般職の地方公務員から報酬を得て非常勤の消防団員と兼職することを認めるよう求められた場合には、任命権者(法令に基づき国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)第百四条の許可又は地方公務員法(昭和二十五年法律第二百六十一号)第三十八条第一項の許可の権限を有する者をいう。第三項において同じ。)は、職務の遂行に著しい支障があるときを除き、これを認めなければならない。

2 前項の規定により消防団員との兼職が認められた場合には、国家公務員法第百四条の許可又は地方公務員法第三十八条第一項の許可を要しない。

3 国及び地方公共団体は、第一項の求め又は同項の規定により認められた消防団員との兼職に係る職務に専念する義務の免除に関し、消防団の活動の充実強化を図る観点からその任命権者等(任命権者及び職務に専念する義務の免除に関する権限を有する者をいう。)により柔軟かつ弾力的な取扱いがなされるよう、必要な措置を講ずるものとする。

 

※ちなみに「職務の遂行に著しい支障があるとき」とは「例えば、国家公務員においては、通常の勤務時間外において、国民の生命又は財産を保護するための非常勤務に従事する義務が課されている危機管理用宿舎又は防災担当職員用宿舎に入居している防災担当職員など、一定の状況が生じた場合、通常の勤務時間外においても、一定の時間内に勤務場所等に到着して一定の業務に従事する義務が課されている職員が消防団活動を行うことにより当該義務を履行できなくなる場合」を指す。また職務専念義務免除について「国家公務員については、政令第2項において、職務専念義務の免除の承認の請求があった場合、公務の運営に支障がある場合を除き、承認しなければならないとされているところ、公務の運営に支障がある場合とは、職務専念義務の免除の承認を請求した職員に求められる職務の遂行に支障がある場合ではなく、当該職員が所属する組織の運営に支障がある場合をいい、この場合を除き、職務専念義務の免除を承認しなければならない」としている。要するに「お前、仕事忙しいんだから」という理由だけでは「職務の遂行に著しい支障があるとき」、「公務の運営に支障がある場合」とは認められないという事。

 

参照

 

消防団を中核とした地域防災力の充実強化に関する法律第十条第一項の規定による国家公務員の消防団員との兼職等に係る職務専念義務の免除に関する政令(平成二十六年政令第二百六号)

 

消防団を中核とした地域防災力の充実強化に関する法律第十条第一項の規定による国家公務員の消防団員との兼職等に係る職務専念義務の免除に関する政令等の公布について(通知)(平成26年6月11日消防地第46号)

 

 公務員が予備自衛官になろうとした時に、一番のハードルが「兼業許可」の取得である。基本的に官公庁で兼業申請を出す人はあまりいないし、ましてや予備自衛官となると大多数の役所で初めての事例となるだろうから、申請の為の資料作成から上司、人事担当部署への説明まで結構な労力を必要とする事になる(無論、地本の担当部署も職場に説明に来たり色々と協力はしてくれるが)。

 

 そして一番の問題は上司や人事部署の判断であっさり却下されてしまう場合がままあるという事だ。予備自衛官について消防団充実強化法と類似の法令が出来れば官公庁側は上記に挙げた特殊な事情でもない限り予備自衛官等の兼業申請を認めないわけには行かなくなるので、ハードルはほぼ消滅する。

 

 訓練招集参加についても防衛省から職免を基本とするとの通知が出ているが、特に地方公務員については最終的に勤務先の自治体の判断となるため、現状では職免が認められたり、認められずに有給休暇で参加したり、逆に職免は認めるが有給休暇を取得しての参加は認めない自治体もあるなど対応がバラバラである。これも消防団充実強化法と同じような規定が出来れば職免による訓練参加に統一されていくだろう。また、防衛招集がかかった場合を考えてもその方が望ましいと考えられる。

 

 二つ目に上げたいのが防衛招集時の対応について予め規定して欲しいという事。予備自衛官等が実任務で招集されたのは現在のところ災害招集に留まっているが、もし有事になれば防衛招集等で長期間の招集になることも想定される。例えば地方公務員の予備自衛官については加入する地方公務員共済組合から国家公務員共済組合に移ることになると考えられるが、有事の際は招集まで時間的余裕があるとも思えず、また国共済だけでなく勤務先を通じて地共済とも書類提出等の手続きを行わなければならない為、平時よりどのような書類、手続きが必要か予め示してもらえるとありがたい。

 

 また、招集されている間は公務員の勤務先での扱いは恐らく無給の職免という事になると思うが、この扱いについても法令で予め規定した方が有事の際に手続き上の混乱を避けられるであろう(例えば公務員が現職のままJICA海外協力隊へ参加する場合は「国際機関等に派遣される一般職の国家公務員の処遇等に関する法律」及び各規則、「外国の地方公共団体の機関等に派遣される一般職の地方公務員の処遇等に関する法律」及びそれに基づく各地方自治体の条例により運用が規定されている)。

 

 三点目は各種給付金の支給である。予備自衛官等制度には雇用企業の負担に報いるため「即応予備自衛官雇用企業給付金」、「即応予備自衛官育成協力企業給付金」、「雇用企業協力確保給付金」等の給付金制度があるが、国、地方公共団体及び公共団体は除くとなっている。この理由については、「国については防衛政策を行う主体であることから除外し、営利を目的としない地方公共団体及び法人税法別表第1に掲げる公共法人についても、公共性が強く国の政策に協力させるためのインセンティブを与えるという給付金の趣旨から支給の必要性がないと考え除外した(即応予備自衛官雇用企業給付金支給要領逐条解説)」とされている。

 

 しかしながら、例えばJICA海外協力隊では地方公務員が現職参加した場合、勤務先の地方自治体には現職参加者を継続して雇用することを促進するための経費として現職参加促進費が民間企業と同様に支払い対象となっている(但し国家公務員は対象外。これは海外協力隊が国の事業(ODA)の一環として行われているからか)。現在、全国の地方自治体は厳しい財政状況と人員削減の中にあり、また通常の訓練招集に加えて昨今の国際情勢を鑑みるに今後防衛招集が発出される可能性もあることから、地方自治体に対する負担を軽減するために前述の予備自衛官等関係給付金は支給対象とするのが妥当ではないだろうか。

 

 この問題については、訓練招集や災害派遣招集、防衛招集などで予備自衛官の職員が職場から抜ける負担は自治体も民間企業と変わらないのに、「営利を目的としない」との理由だけで給付金対象から除外するのは整合性が取れないのではないかと思う。また予備自衛官の兼業許可が地方自治体の判断にゆだねられている現状では、給付金が認められるだけで地方自治体側の心象も変わり、申請が認められやすくなるという利点もあるのではないか。

 

 国家公務員及び地方公務員の予備自衛官等については古い資料だが平成24年度時点で予備自衛官約1,300人、即応予備自衛官約50人、予備自衛官補約50人がいるとの事である(第180回国会 衆議院予算委員会第一分科会 第1号 平成24年3月5日)。公務員については民間企業と比較して予備自衛官等の勤務を継続しやすい労働環境にあると思うので、予備自衛官等の充足率向上のためにも防衛省には安心して予備自衛官等になれるような制度改正をこれからも進めて頂きたい。