予備自衛官雑事記

予備自衛官のあれやこれや

地方公務員が防衛招集される際に望ましい方法は何か?(補遺)

※当記事は公開情報を元に支障のない範囲で記述しておりますが、もし問題がある個所がありましたら筆者まで一報頂ければ幸いです。また記事の内容は投稿日現在のものです。

 

reserve-f.hatenablog.com

 

 先日投稿した記事について国会の議事録で参考になるような答弁が行われていないか調べていたところ、関係ありそうな内容を見つけたので紹介しようかと思います。なお、関係者の役職等は当時のものです。

 

kokkai.ndl.go.jp

 

(以下引用)

 

第61回国会 参議院 本会議 第34号 昭和44年7月22日

 

北村暢(日本社会党

 予備自衛官で、公務員、地方公務員の身分にある者はどのくらいいるのか。公務員である予備自衛官が教育招集の場合、いかなる手続でこれに応ずるのか。その場合、公務員の職務専念の義務との関係はどうなるのか。また、防衛招集の場合に、公務員としての身分はどうなるのか。また、負傷、病気、戦病死したときはどうなるのか。公務員法上どのような取り扱いになるのか。その根拠を明らかにしていただきたい。

 予備自衛官で、公職——市町村会議員等についている者がいるが、防衛招集になった場合、本人の公職としての身分はどうなるのか、法的に説明していただきたい。

 

有田喜一(防衛庁長官

 予備自衛官で公務員となっておる者の数は、四十三年度末現在で約二千百五十名であります。予備自衛官総数の七・二%に当たります。これらの者が訓練招集に応ずる場合には、ほとんど年次休暇の扱いで、勤務を離れて出頭しております。公務員が予備自衛官を兼ねる場合には、国家公務員法または地方公務員法の定める手続による許可の範囲内において職務専念義務を免除されるものと解しております。予備自衛官で現に公務員として勤務している者は、防衛招集に応じて出頭した日をもって自衛官となる。この場合、自衛隊法及び公務員法の規定上、その者が招集前にしていた公務員の身分は失うことなくそのまま存続すると、かように解しております。

 

 

第63回国会 参議院 予算委員会 第13号 昭和45年4月2日

 

山崎昇(日本社会党

 その次にお尋ねしたいのは、先ほど自衛隊におられる人を除いて、地方公務員も入れて、大体公務員になっている人が千二百人ぐらいおるわけなんです。そこでお聞きをしたいのは、防衛招集をされますというと、この一般職の国家公務員は特別職の自衛隊員になるわけですね、七十条の三項で。これは辞令を発せずして自衛隊員になるわけなんですが、そうすると、防衛庁以外の官庁に勤務しておるこの国家公務員の身分というのはどういうふうになってくるか、それから防衛招集後のその人の給与その他はどういう関係になってくるのか、国家公務員法との関係で法制的にひとつ御説明を願いたいと思います。

 

中曽根康弘防衛庁長官

 詳細は局長をして答弁せしめますが、まず兼任になるようであります。それで、防衛招集の期間は休暇扱いとなる、そういうことであるそうであります。

 

内海倫(防衛庁人事教育局長)

 長官の答弁の補足をして御説明を申し上げたいと思います。

 一般の国家公務員であります者が防衛招集を受けますと、お説のように特別職の定員外の自衛官になるわけであります。したがいまして、この人についていえば、一般職である国家公務員であることと、それから防衛招集された自衛官であることは、兼業の関係になります。これは、国家公務員法百四条の規定及びそれに関しまする政令等によって定められておるところであります。したがって、身分はそういうことでございます。それから、給与の関係につきましては、これは御存じのように、許可を受けて兼業が許可されるわけでありますから、その許可の範囲内において一方の業務に従事することができる、こういうことになるわけですが、防衛招集を受けました場合におきましては、その自衛官であることは、同時に全部の仕事を自衛官としての仕事に当てるわけでございます。したがいまして、一般職のほうの国家公務員としての仕事はできなくなるわけだ、そういたしますと、その給与に関しましては、その勤務せざる分は全部減額される、こういうことになろうと思います。したがいまして、もしそれが長期にわたるならば、長期の間一般職の公務員としての給与はもらえなくなる、結果的にそういうことになろう、こういうふうに思います。

 

山崎昇

 それでは局長にお尋ねいたします。

 いまあなたから国家公務員法の百四条で兼業になると、こう言うんですね。これは一般職の公務員が他の公務員につく場合に兼業になるんですね。予備自衛官が一般職の公務員になるときは百四条ではないんだ、これはね。そこで、いま防衛招集になりますと、これは三日以内に出頭しますから出頭した日から特別職の公務員になる。このときに一般職の公務員は他の職業につくことを許可をとらなきゃならぬですね。とらなきゃならぬ。もしとらなければ、これはつけないということにもなってくる。そうすると、国家公務員法の百四条と予備自衛官というものと七十条の防衛招集後の問題とはどういうからみ合いになってくるのか、もう一ぺんひとつ。

 

内海倫

 御存じのように一般職と一般職という関係になれば、これは併任という問題もあろうと思いますが、兼業の禁止というのが百四条の規定であることは御存じのとおりでございます。そうしますと、一定階級以上のものは内閣総理大臣、それ以下のものにつきましては、内閣総理大臣の委任に基づいた所属長が兼業の許可をするわけであります。そうしますと、予備自衛官を志願いたします場合、これ予備自衛官であるということも同時にそれは兼業の状態が発生いたしておるわけであります。したがって、予備自衛官を志願する場合には、当然その許可を受けておらなければならないものと、かように考えます。したがいまして、予備自衛官であることは、予備自衛官になるということは、結局、防衛招集に応ずる義務を負うこととともに、平時におきましては訓練招集に応じなければならないという、そういう任務を持つわけでありますから、したがって、すでに予備自衛官であるときに兼業の許可を受けておることによって防衛招集を受けましても、そのままそれが継続して続くものと、私どもはこういうふうに理解いたしております。

 

山崎昇

 局長ね、それは少し違うんじゃないですか。あなたの言っているのは、一般職についたあとに予備自衛官になった場合のことを言うんだが、予備自衛官のほうはそうじゃないんですね。自衛隊をやめられて、そして予備自衛官になっている者が一般職に勤務するときには、職務専念義務を多少はずしてもらいたいとか、あるいは教育招集がありますとかということを述べて、それによって差別しちゃいかぬということになっておる。だから今度は予備自衛官が一般職に採用されておって、そして防衛招集になったあと、この百四条ということが発動されてくるんです。だから国家公務員法の百四条は、いまあなたの解釈ではできない。あらためてこれは関係長の許可をとらなければできないんですよ。その点はどうなりますか。

 

内海倫

 私、この問題につきましての見解を申し上げたいと思いますが、確かに予備自衛官になっておいてから一般職の国家公務員なり地方公務員になることはあると思います。その場合において、いまお示しのありましたように、自衛隊法に予備自衛官であることをもって採用について差別してはならないというふうな規定がありますから、それに基づいて採用するものと思います。しかし、その時点において、私どもの理解いたします限りには、予備自衛官であるという兼業が採用者側において許可されたものと考えなければならないのではないのかと、こういうふうに考えます。

 

山崎昇

 きょう人事院呼んでおりませんからね、実はあなたの答弁違うんだな。人事院の見解はまた違うんですね。私が述べているような見解を人事院がとるわけです。これはいまあなたと論争してもなかなか際限つかないと思うんですが、私はこの防衛招集によって予備自衛官というものが、一般官庁に勤務している者が自衛官になる場合にはこれは一般職同士でありませんから兼任ということは適当ではないと思いますよ。しかしそれと同じような方法による自衛官の採用方法だと思うのですね。そういうことになってくると、私はいまのあなたの百四条の考え方には賛成できない。これはやっぱり私は法制的に検討しておいてもらいたい、こういうふうに一つ思うのです。

 そこで総務長官にお尋ねしたいのですがね。いま論争をやっておりますように、実はこの予備自衛官をめぐる問題はたくさんそのほかにもあります。後ほどまたお聞きをしますが、招集になったあと身分はそのままだと、こういうのです。私はこれはなくなるのではないかという見解をとる。したがって、それらについて総務長官の見解を聞いておきたい。それからもしも昔の召集令と同じように、一般公務員のほうの給与が高かった場合に、防衛招集されて自衛官になる、しかし一般公務員としての給与が高かった場合に、もちろん職務は専念しておりませんけれども、その差額等は払うということになるのか、それは一切払わないというのか。それから一般公務員についた場合に一体この月手当千五百円というものを出しておりますが、これはどういう取り扱いになってくるのか、ここらのことを公務員法を扱う総務長官から聞いておきたいと思います。

 

山中貞則(総務長官)

 やはりこれは招集に応じた場合には公務員法によって兼業であると思います。それから第二の点は防衛庁の人事局長の答弁がよろしかろうと思いますが、第三点の月千五百円は本来の報酬月額に上のせして別途給付されております。

 

(引用終わり)

 

 昭和40年代の国会答弁なので現在では運用が変わっている部分もあると思いますが、基本的な認識は変わっていないと思います。要点をまとめると以下の通り。

 

  •  公務員が防衛招集された場合、招集前にしていた公務員の身分は失わない。
  •  公務員が予備自衛官を兼ねる場合には、国家公務員法または地方公務員法の定める手続による許可の範囲内において職務専念義務を免除される。
  •  国家公務員が防衛招集された場合、兼業の範囲内で一方の業務に従事するが、防衛招集された場合は全てを自衛官としての業務に従事する為、一般職公務員としての給与はもらえなくなるだろう。
  •  国家公務員が防衛招集された場合、国家公務員法第百四条に基づく兼業許可を改めて得ることは不要(これは地方公務員も同じ扱いになると思われる。なお山崎議員は必要との立場)。
  •  公務員が防衛招集に応じた場合も兼業で従事しているという形になる。

 

 当時の防衛庁の考え方として、公務員が防衛招集される場合は元々の公務員の身分を有したまま兼業の延長線上として職務専念義務免除等を活用し従事するという考え方みたいです。

 国家公務員の場合はこれで何とかなるのかもしれませんが、地方公務員の場合、前に書いた共済の問題もありますし、そもそも自治体によっては予備自衛官の防衛招集に職免が使えない(地方公務員法第三十五条の規定に基く条例に特別の定がなければならないので)、長期無給休暇の制度がない等の場合もあるので、地方公務員として安心できるような運用を行うためにはやはり何らかの法制的検討が必要かと思います。

 

R2.8.30追記

 

 引き続き、国会の議事録を検索していたところ、防衛招集と職免の関係についての答弁が見つかったので追記で紹介します。

 

(以下引用)

 

第85回国会 参議院 地方行政委員会 第3号 昭和53年10月19日

 

志苫裕(日本社会党

(前略)

 時間ですが、済みません、最後に一つだけ。——行政局長でいいんですが、予備自衛官というのが地方公務員にいるとして、これに防衛招集、訓練招集等があったときに断れますか。

 

砂子田隆(自治省行政局公務員部長)

 いまお話しございました、地方公務員であります予備自衛官に関しまして、防衛庁長官から自衛隊法七十条の規定による出動を命ぜられるということになりますと、この七十条の二項に、その招集に応じなきゃならぬという義務規定がございまして、それが地公法の三十五条に言うところの職務専念義務免除の中の例外規定の法律であるというふうに読めますので、任命権者はその地方公務員を出動させるということになると思います。

 

志苫裕

 そう自動的には、一方には職免もあるでしょうに。職務専念義務もあるでしょう。

 

砂子田隆

 三十五条の規定というのは職免の規定でございまして、その規定に従いまして、この自衛隊法七十条の二項が法律で定める別の場合というふうに該当しますので、その規定による職務免除によって地方公務員が出動に応ずるということになっております。

 

志苫裕 

 だから、自治体の長は職務免除を拒否できるかどうかということですよ、職務免除をしないと。

 

砂子田隆

 それは大変むずかしいと思います。というのは、自衛隊法七十条の二項の規定というのは広く国民一般に通ずる規定でございまして、特に、自衛官になっているその人に対しましては初めから義務を課しているということになっておりますので、その義務を課している部分に知事が反対だと言うことはむずかしかろうと思います。

 

(引用終わり)

 

 文中で引き合いに出されていた自衛隊法第七十条第二項及び地方公務員法第三十五条の条文については以下の通り。

 

自衛隊

(防衛招集、国民保護等招集及び災害招集)

第七十条 防衛大臣は、次の各号に掲げる場合には、内閣総理大臣の承認を得て、予備自衛官に対し、当該各号に定める招集命令書による招集命令を発することができる。

一 第七十六条第一項の規定による防衛出動命令が発せられた場合又は事態が緊迫し、同項の規定による防衛出動命令が発せられることが予測される場合において、必要があると認めるとき 防衛招集命令書による防衛招集命令

二 第七十七条の四の規定により国民の保護のための措置(武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律(平成十六年法律第百十二号)第二条第三項に規定する国民の保護のための措置をいい、治安の維持に係るものを除く。以下同じ。)又は緊急対処保護措置(同法第百七十二条第一項に規定する緊急対処保護措置をいい、治安の維持に係るものを除く。以下同じ。)を実施するため部隊等を派遣する場合において、特に必要があると認めるとき 国民保護等招集命令書による国民保護等招集命令

三 第八十三条第二項の規定により部隊等を救援のため派遣する場合において、特に必要があると認めるとき 災害招集命令書による災害招集命令

2 前項各号の招集命令を受けた予備自衛官は、指定の日時に、指定の場所に出頭して、招集に応じなければならない。

 

地方公務員法

(職務に専念する義務)

第三十五条 職員は、法律又は条例に特別の定がある場合を除く外、その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い、当該地方公共団体がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない。

 

 つまり、当時の自治省(現在の所管部署は総務省自治行政局公務員部)の見解として、自衛隊法第七十条に定める防衛招集(現在では国民保護等招集、治安招集、災害等招集も含むと思われる)は地方公務員法第三十五条の「法律又は条例に特別の定がある場合」に該当する為、各自治体の条例に定めがなくとも職務専念義務を免除することが可能ということです。

 

 解釈がちょっと無茶じゃないかという気がしないことも無いですが、少なくとも有事の際に地方公務員の予備自衛官等を職免を用いて地方公務員の身分はそのままに長期招集することは法的に可能であると政府は認識しているようです。