予備自衛官雑事記

予備自衛官のあれやこれや

「消防団充実強化法」の予備自衛官版は可能か?

※当記事は一般公開しても支障のない範囲で記述しておりますが、もし問題がある個所がありましたら筆者まで一報頂ければ幸いです。

 

 予備自衛官即応予備自衛官の定員割れが問題になって久しいですが、同じように志願者不足で悩んでいる非常勤の公務員に消防団員があります。

 

 消防団員とは普段は生業に従事し、火災時等には消火活動に従事する特別職非常勤地方公務員です。日ごろの火災や自然災害などで活躍し、東日本大震災では水門操作や避難誘導に当たった消防団員253名が津波等で殉職されるなど、地域の防災活動に無くてはならない存在ですが、最盛期の200万人から85万人へと団員数が減少しています。

 

 これは居住地以外に通勤するサラリーマンが増えたことや、昨今の不景気、最近では人手不足もあり仕事との両立が難しくなったことが原因として考えられるそうです。消防庁や各自治体では任務を限定して負担を少なくした「機能別団員」を導入するなどして女性や大学生の加入を促したり、消防団活動に協力した企業を顕彰する「消防団協力事業所表示制度」を創設したり、消防団員雇用企業に減税や入札で加点を行うなどして消防団員確保に取り組んでいます(どこかで聞いたような話ですね)。

 

 そのような中、平成25年に成立したのが「消防団を中核とした地域防災力の充実強化に関する法律(平成二十五年法律第百十号)」(以下、消防団等充等実強化法という)です。

 

 この法律は消防団を中核とした地域防災力の充実強化を図り、消防団の強化による地域防災体制の向上を目的としたものです。ここで注目すべきは、第十条(公務員の消防団員との兼職に関する特例)です。

 

第十条 一般職の国家公務員又は一般職の地方公務員から報酬を得て非常勤の消防団員と兼職することを認めるよう求められた場合には、任命権者(法令に基づき国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)第百四条の許可又は地方公務員法(昭和二十五年法律第二百六十一号)第三十八条第一項の許可の権限を有する者をいう。第三項において同じ。)は、職務の遂行に著しい支障があるときを除き、これを認めなければならない。

2 前項の規定により消防団員との兼職が認められた場合には、国家公務員法第百四条の許可又は地方公務員法第三十八条第一項の許可を要しない。

3 国及び地方公共団体は、第一項の求め又は同項の規定により認められた消防団員との兼職に係る職務に専念する義務の免除に関し、消防団の活動の充実強化を図る観点からその任命権者等(任命権者及び職務に専念する義務の免除に関する権限を有する者をいう。)により柔軟かつ弾力的な取扱いがなされるよう、必要な措置を講ずるものとする。

 

 第十一条では一般の事業者にも従業員の消防団への加入、活動に配慮しなければならないとしていますが、国家公務員及び地方公務員については「職務の遂行に著しい支障があるときを除き、これを認めなければならない」としています。

 

 これに伴い、国家公務員については「消防団を中核とした地域防災力の充実強化に関する法律第十条第一項の規定による国家公務員の消防団員との兼職等に係る職務専念義務の免除に関する政令(平成二十六年政令第二百六号)」及び「消防団を中核とした地域防災力の充実強化に関する法律第十条第一項の規定による国家公務員の消防団員との兼職等に関する規則(平成二十六年内閣官房総務省令第一号)」により「その所轄庁の長(中略)の承認を受けて、消防団員としての活動を行うためにその割り振られた正規の勤務時間の一部を割くことができる」(要するに職免で消防団活動ができる)ようになりました。

 

 また各自治体においても消防団等充実強化法制定後は条例で消防団活動が職免で行えると規定する流れとなっており、地方公務員の消防団加入手続きも簡略化されております。

 

 公務員の私としては是非、防衛省自衛隊法を改正して頂き、公務員が予備自衛官等を志願した際には原則として承認しなければならない様にすると同時に、手続きの簡略化や訓練出頭を職免で行えるようにしてほしいところではありますが、消防団と違い、いろいろと障害が出てくるであろうということも予想できます。

 

 まず第一に、消防団を強化することに反対する人はいないが、自衛隊を強化することに反対する人はまだまだ多いという事。海上区分の予備自衛官補(技能)募集を防衛省が始めた時には全日本海員組合から「事実上の徴用だ」との声が上がりましたが、公務員が予備自をやりやすいよう法律を整備しようとしたら官公労がそろって反対してくることは間違いないでしょう。「事実上の徴兵だ」等と騒ぎ立てるやもしれません。勿論、官公労が支持母体の政党も反対の論陣を張るでしょう。

 

 第二に、予備自衛官志願を認めなければならないとなると予備自衛官が公務員採用試験で忌避されるようになるのではないかということ。消防団活動は日ごろの訓練と火事や災害時のみで、活動範囲も職場からそれほど離れていないと考えられますが、予備自衛官の場合は災害派遣招集はともかく防衛招集がかかれば派遣先は遠方になる可能性もあり、また招集期間も年単位になる可能性があります。そして最悪の場合は戦死、もしくは職務に復帰できないほどの重傷を負う恐れもあるのです。

 

 こうなると予備自衛官だけでなく、元自衛官というだけでマイナスイメージを与えてしまう可能性もあります。官庁や地方自治体の人事担当者からすれば「元自衛官を採用しても予備自衛官を志願されたら有事には自衛隊に行っちゃうし、それだったら別の人を採用しようか…」と考えるかもしれません。

 

 勿論、自衛隊法第七十三条には「何人も、被用者を求め、又は求職者の採否を決定する場合においては、予備自衛官である者に対し、その予備自衛官であることを理由として不利益な取扱をしてはならない。」と規定されていますが、罰則規定がないうえに学科試験を通っても面接で適当な理由をつけて落とせばそれで終わりですから何ら実効性がありません。

 

 というわけで、消防団等充実強化法のように法令で国や自治体に職員の予備自衛官志願を認めなければならないと定めるのはちょっと無理があるかなと私は思います。理想を言えば、「予備自衛官は我が国の平和と独立を守るために必要な制度だから公的機関として協力するのは当たり前だ」と考える人が広がってくれれば一番だとは思いますが、現実にそれが見込めない以上、雇用企業側へのインセンティブを増加させると共に、災害時の予備自衛官等の招集を増やし一般社会に予備自衛官制度を益々認知してもらうのが今できる限度ではないでしょうか。

 

 そうなると、現在、国や地方公共団体には適応されない「即応予備自衛官雇用企業給付金」や「雇用企業協力確保給付金制度」を何とかしてほしいところですが…。現状、国や地方自治体が予備自衛官を出して自衛隊に協力しても何の補償もないですからね。

 

 まぁ、この話は別の機会に改めてしたいと思います。