予備自衛官雑事記

予備自衛官のあれやこれや

地方議員と予備自衛官

※当記事は公開情報を元に支障のない範囲で記述しておりますが、もし問題がある個所がありましたら筆者まで一報頂ければ幸いです。また記事の内容は投稿日現在のものです。

 

 一般職の地方公務員については、地方自治法第38第1項で兼業については任命権者の許可が必要と定められております。一方で、特別職地方公務員である地方議会議員については予備自衛官の兼業について制限はありません(地方公務員法第四条第2項。ちなみに都道府県知事や市町村長もなろうと思えば予備自衛官になれます。やっている人は多分いないと思いますが)。実際に、予備自衛官をしている地方議員もいらっしゃいます。経歴も自衛隊退職者や公募予備自衛官出身者など様々です。

 

 さて、筆者のような地方公務員からしてみると気になるのは予備自衛官地方議会議員は両立できるのかという点です。一般の方々は議員がどんなことをしているかよく分からないと思いますが、真面目にやっていれば地方議会議員というのは結構多忙な仕事です。各委員会や本会議は当然として、各種会合やイベントへの出席、陳情への対応などがあり決して片手間に出来る仕事ではありません(あくまで真面目にやっていれば…の話ですが)

 

 予備自衛官の場合は年間5日間の訓練ですので議員と兼業しながらでも務まるでしょうが、即応予備自衛官はさすがにきついのではないかと思います。一応、ネット上で検索してみましたが予備自衛官の議員は何人か見つかったものの即応予備自衛官の議員は後述する坂野経三郎議員(鳥取県議会・即応予備3尉)ぐらいしか見つかりませんでした。

 

 このように、平時に予備自衛官地方議会議員を兼業することは一応可能だと思いますが、一方で有事が来た場合にはどうするのかという問題が発生します。自然災害で1週間程度の招集ならば委員会や本会議等の時期に重なってさえいなければ応招可能だと思いますが、防衛招集で長期の招集が予想される場合はどうでしょう?

 

 アメリカではユタ州ウィーバー郡ノース・オグデン市長、ブレント・テイラー州兵少佐が現職市長のまま招集されアフガニスタンで戦死したという事例がありましたが(400日のアフガニスタン派遣命令。市長不在の間は議会が承認した職務代理者が代行していたとの事)、日本の世論が果たしてそのような事を認めるのかどうか。実際に、予備自衛官の訓練招集に参加する為に本会議を欠席した議員が批判されるという事態も日本では起こっています(鳥取県議会・坂野経三郎議員の事例。なお当時は海自の予備自衛官)。

 

 この問題については過去に国会で取り上げられたこともありました。

 

第63回国会 参議院 予算委員会 第13号 昭和45年4月2日

 

山崎昇(日本社会党

 次にお聞きをしたいのは、先ほどの説明で、市会議員等公職についている人がおります。そこで、正当な理由というのを聞いたら、心身の故障、それからやむを得ない事情としては、親属の死亡あるいは災害等の場合だと。そこでお聞きをしたいのは、市会議員等の場合に、市会が開かれておる、公職として自分はいろいろ活動しなければならぬ、その場合に防衛招集がくる、この人は、私はいま市会議員として市会が招集されておりますから職務を遂行したい、そういう意味でこの防衛招集に応ぜられないといった場合に、これは一体七十条の違反になるのかどうかですね、まずお聞きしておきたい。

 

内海倫(防衛庁人事教育局長)

 法律及び先ほど申しました政令のたてまえからいいますと、あの条件に該当しないで、したがってその意味におきます正当な理由がなくて招集に応じないで三日を経過した場合、これは罰則の適用を受ける。したがっていまの市会議員である人の場合におきましても、それを特に例外とする規定がございませんので、そういうことになろうかと思います。ただ、防衛招集は、これはもう御存じのように防衛出動が下令されておる場合に、内閣総理大臣の承認を得て長官が必要があれば招集する、こういうことになっております。そうしますと、当然これはまあまだそういう事態がありませんし、したがって諸般の手続規定などもできておりませんけれども、そういうふうな職務にある人等については長官が防衛招集命令を出す場合にこれは出さない、あるいはそういうことの状況をよく見た上で命令を出すということになるのではなかろうかと。したがってそういうふうな重要なしかも欠くことのできない公務に従事しておるというふうな人についての招集というものは命令が出されないのではないかと、こういうふうに私どもは考えたいと思います。

 

 だいぶ古い答弁ですが、当時の防衛庁としては地方議会議員予備自衛官を招集するに当たっては一定の配慮をすると考えていたみたいです。

 

 なお、自衛官自衛隊法第六十一条で政治行為が制限されていますが、予備自衛官については同法第七十五条で適用されない事となっております。また招集中の予備自衛官についても一部適用除外されています。

 

 具体的に言えば、招集中の予備自衛官であっても選挙に立候補したり、政党や政治団体の役員や顧問等になることは出来ます。ただし政治活動について招集されている間は制限されますので、もし招集中の予備自衛官が選挙に立候補しようとしたら、立候補自体は出来るものの、肝心の選挙活動は(少なくとも本人は)できません。

 

 この問題は少なくとも昭和45年の段階で明らかになっていたみたいですが、その後改善された形跡はありません。ここら辺も有事にならないと抜本的な解決は図られないと思いますが、現状では議員が選挙で選ばれた公職である以上、当時の防衛庁の見解の通り、長期の招集は難しいと考えるのが妥当ではないでしょうか。