予備自衛官雑事記

予備自衛官のあれやこれや

自衛官と地方公務員、働いてみて感じた違い

※当記事は公開情報を元に支障のない範囲で記述しておりますが、もし問題がある個所がありましたら筆者まで一報頂ければ幸いです。また記事の内容は投稿日現在のものです。

 

 ブログで何回か書いておりますが、私は陸上自衛隊を陸士長で退職した後、地方公務員として役所に入りました。自衛官の皆さんの中には自衛隊から地方公務員に転職したいと考えている方もいるかと思いますが、実際の所、自衛隊と比べて地方公務員の仕事はどうなのかと言う疑問もあるかもしれません。そこで、今回はいくつかの点で比較していこうかと思いますので興味のある方は参考にしてみてください。

 

 なお、内容は私の個別的経験に基づくものですので全ての自衛隊部隊、地方自治体で一般化できるものではないという事をご了承願います。

 

1 給料

 まず気になるのは地方公務員は自衛隊と比べてどれぐらい給料がもらえるかという点だと思います。

 

 自衛官からしてみれば地方公務員の方が給料が良いのではないかと思っている方もいるかもしれませんが、実際の所、そんなに良いもんじゃありません。とりあえず以下の数値をご覧ください。

 

地方公務員(東京都特別区)の初任給

特別区(東京23区)職員1類(大卒) 初任給 約220,400円

特別区(東京23区)職員3類(高卒) 初任給 約176,500円

※令和2年度

 

自衛官候補生の初任給

自衛官候補生(大卒)              198,100円

自衛官候補生(高卒)              179,200円

※2等陸・海・空士任官後の初任給。各種手当含まず。

 

 初任給だけ見れば大卒区分なら自衛隊よりマシ程度、高卒区分なら自衛隊時代よりも下がる可能性があります。勿論、自衛隊経験者は職歴加算(地方公務員になる前に働いていた場合はその経歴に応じて初任給がプラスされる)がありますし、自衛隊にはない残業代が支給されますので一概には言えませんが、あまり過度な期待はしない方が良いというのが正直なところです。

 

2 労働時間

 地方公務員はどれぐらい残業しているのかというのも関心のあるテーマだと思います。

 

 地方公務員の労働時間というのは自衛官と同じく本当に千差万別で、月100時間以上残業している職員もいれば毎日定時で帰宅できる職員もいます。入庁後、残業時間がどうなるかははっきり言って配属された部署によって決まります。つまりは運次第という事ですね。

 

 技能労務職については滅茶苦茶残業のある所に配属されることはありません(というか、無茶苦茶残業するほど仕事がない)。ただし、勤務日が不規則だったり夜勤があったりする場合もあるので注意が必要です。

 

 なお、技術系職員の場合は夜間工事の立ち合いで夜勤があったり、施設の運転管理で交代制勤務の場合もあります。技術職は机に向かってばかりが仕事ではないのでここら辺はあきらめましょう。ただ、自衛隊の勤務を経験していればそんなに辛いことは無いと思います。

 

 その他、台風や大雨等で警報が出た場合、防災配備でいきなり呼び出されたりすることもありますがこれは公務員である以上仕方がないですね。

 

3 休み・休暇

 部署によりますが土日でも開館している施設や交代制の部署以外は基本的に土日祝日は休みです。もし出勤した場合は代休が付きますのでそこら辺は自衛隊と同じですね。もちろん、代休を使う日を中隊が勝手に決めるみたいなことは役所ではありません。仕事と調整さえつけば基本的には自分の休みたい日に代休を使えます。

 

 陸自では休日でも初動要員や残留要員は駐屯地から出られません。一方、役所でも上で述べた通り災害等に備えて休日当番(気象警報が出たら出勤する)が設定されていたりはしますが、自衛隊の残留要員みたいに常に職場に缶詰にされたりすることは無いのでご安心を。

 

 あと、地方公務員なら有給休暇も使い放題だと思われるかもしれませんが、これも正直、地方自治体や所属部署の業務量と組織文化によります。ただ、現在では地方自治体もライフワークバランスの実現を目標に掲げたりしているので、全く取れないという事は多分ないはずです。

 

 私が陸自にいた時はそもそもお盆と年末年始以外は年休なんて使えないという感じでしたので、今の役所に入ったときに「え、普通に年休取ってもいいんだ」という感じでした。

 

 プライベートでは当たり前ですが役所に営内居住なんてものはないので、私生活での自由度は各段に上がっています。職場はプライベートに一切干渉してこないので貯金せずに遊ぼうが、車を買おうが、旅行に出かけようがとにかく自由です(というか世間ではこれが普通です)。職場の飲み会とか、地域のイベントに出席させられたり、組合の慰安旅行があったりしますが、自衛隊時代に比べればプライベートまで職場に拘束される頻度は非常に低いと言えるでしょう。

 

 地方公務員のデメリットとしては、夏期休暇はまとめて取れない事が多いです。自衛隊ではお盆辺りに夏期休暇と年休を足して部隊統一の長期休暇を取ることが多いと思いますが、地方自治体の場合、お盆でも窓口はカレンダー通りの平常運転なので休むことができないのです。しかも人員削減により長期間休んで職場を空けるという事が難しいため、結局8月の休めるときにバラバラに消化するという事になります。

 

4 仕事内容

 陸上自衛隊の場合、陸士長というのは基本的に責任ある仕事を任せられることはありません。上から色々言われてきつい所もあるのですが、部隊の運用や指揮に関して責任はないのでそこら辺は気楽です。

 

 一方、地方公務員の場合、技能労務職を除けば入庁直後から係員として一定の責任を任される立場となります。極端なことを言えば、書類のミス一つで役所が新聞に載り、知事や市町村長が記者会見で謝罪する事態になる可能性もあるわけです。

 

 現在の地方自治体は職員が削減されているため、非正規公務員の比率も増加しています。入庁して配属されてみたら係員は全員非正規職員で正規職員は自分だけだった・・・という可能性もあるのです。そこで係長が業務に精通していればまだ大丈夫なのですが、係長が残念な人だったりすると業務を一身に背負い込むことになるため責任がのしかかって結構辛いものがあります。

 

 まぁ、ここまでひどいことは滅多にないですが、それでも任される責任は陸士長時代と比べればかなり重いです。その分、やりがいはありますが相応の計画性、企画力、調整能力(特に大事です)が求められますので、陸士長だったころの考えは捨てて自発的に動いていくことが求められると思います。

 

 その他、自衛隊より大変なのは市民のクレーム対応です。自衛隊では陸士長が市民のクレーム応対をすることはほぼありませんが、市役所では総務系や管理系の部署でない限りは多かれ少なかれ市民からのクレームに対処しなければならなくなります。相手によっては延々と罵声を浴びせかけられることもあり、ストレスで精神を病み病休を取る人も少なくありません。

 

 私見ですが自衛隊出身者は一般人よりは精神的にタフなので、地方公務員になろうとしている自衛官の方はそれほど気にする必要はないと思います。ただ、こういう苦労もあるのだという事は覚えておいてもらいたいと思います。