国民保護等招集とは何ぞや?
※当記事は公開情報を元に支障のない範囲で記述しておりますが、もし問題がある個所がありましたら筆者まで一報頂ければ幸いです。また記事の内容は投稿日現在のものです。
予備自衛官や即応予備自衛官の招集については以下のように区分されています。
防衛招集
国民保護等招集
治安招集(即応予備自衛官のみ)
災害招集(即応予備自衛官は災害等招集)
訓練招集
※即応予備自衛官が災害「等」招集となっているのは地震防災派遣や原子力災害派遣の招集対象にもなっているため。
防衛招集については有事(戦時)、治安招集については内乱、災害招集については自然災害と、予備自衛官がどのような状況で招集され、いかなる任務に従事するのかある程度想像しやすいと思います。
では「国民保護等招集」とは一体何なのか? どのような状況で招集され実際に何をやるのか、字面だけではわかりにくいと思います。簡単に言ってしまえば「国民保護等招集」とは「災害招集」の有事バージョンとなるのですが、少しややこしいので根拠法等を参照しつつ説明していきます。
平成16年に「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」が成立しました。これにより軍事攻撃、大規模テロ等から国民を守るため国や地方公共団体が行わなければならない措置等が規定されました。要するに有事に備えて国や地方自治体はあらかじめ計画を作っておきなさいよ、有事の際は国民を守るためにこういうことをしなさいよ、と法律で定めたわけです。
国民保護法の制定に伴い、防衛省も有事に国民保護措置(主に軍事攻撃が対象)、緊急対処保護措置(主にテロ攻撃が対象)が行えるように自衛隊法を改正し「国民保護等派遣」(自衛隊法第七十七条の四)が新設されました。
(国民保護等派遣)
第七十七条の四 防衛大臣は、都道府県知事から武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律第十五条第一項の規定による要請を受けた場合において事態やむを得ないと認めるとき、又は事態対策本部長から同条第二項の規定による求めがあつたときは、内閣総理大臣の承認を得て、当該要請又は求めに係る国民の保護のための措置を実施するため、部隊等を派遣することができる。
2 防衛大臣は、都道府県知事から武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律第百八十三条において準用する同法第十五条第一項の規定による要請を受けた場合において事態やむを得ないと認めるとき、又は緊急対処事態対策本部長から同法第百八十三条において準用する同法第十五条第二項の規定による求めがあつたときは、内閣総理大臣の承認を得て、当該要請又は求めに係る緊急対処保護措置を実施するため、部隊等を派遣することができる。
※すでに防衛出動、治安出動が命ぜられている場合はその一環として国民保護もしくは緊急対処保護を実施する。
では、武力攻撃事態等は具体的にどのような事態を指すのか。内閣官房の国民保護ポータルサイトでは以下の類型を挙げています。
武力攻撃事態
●着上陸侵攻
●弾道ミサイル攻撃
●ゲリラ・特殊部隊による攻撃
●航空攻撃
緊急対処事態
●危険性を内在する物質を有する施設等に対する攻撃が行われる事態
●多数の人が集合する施設及び大量輸送機関等に対する攻撃が行われる事態
●多数の人を殺傷する特性を有する物質等による攻撃が行われる事態
●破壊の手段として交通機関を用いた攻撃等が行われる事態
分かりやすく言えば、武力攻撃事態が軍事攻撃、緊急対処事態がテロ攻撃を主に想定しています。このような事態に対し、自衛隊が想定している活動内容は以下の通りです。有事という特性から一部相違点もありますが、活動内容としては災害派遣と重なる部分が多いことが分かると思います。(長崎地本のホームページより抜粋)
住民の避難
必要な情報を収集・提供するとともに、関係機関と連携して、避難住民の誘導や運送を実施します。このほか、地方公共団体の長から、住民の避難のために自衛隊の駐屯地・基地内の通行などを要請された場合には、速やかに所要の調整・手続きなどを実施します。
避難住民などの救援
人命救助関係(捜索・救難、応急医療の提供など)を中心に、対策本部長などからの求めにより、医療活動の支援(傷病者の搬送など)や、必要に応じて生活支援関係の措置(炊き出し、給水、救援物資の輸送など)や安否情報の収集を実施します。このほか、救援のための、防衛省の施設の使用許可などを行います。
武力攻撃災害への対応
被害状況の確認(モニタリング支援など)、人命救助(捜索・救助、応急医療の提供など)、被害の拡大防止(周辺住民の退避支援、消火など)、NBC攻撃等による危険物質の除去などを実施します。このほか、生活関連等施設の安全確保の支援(指導・助言、職員の派遣)などを実施します。
応急の復旧
防衛省の所管する施設および設備の応急の復旧を行うとともに、都道府県知事などからの要請により、危険ながれきの除去や道路や滑走路の応急補修などの支援を行います。
国民保護等派遣は軍事攻撃や大規模テロが発生している(もしくは発生しようとしている)けれど防衛出動や治安出動を命じるほどではないという段階で実施されますので、原発テロ等の特殊な状況でなければ発令されることも無く、予備自衛官が招集される可能性も低いと思われます。
ただ、有事の際は防衛省・自衛隊としても敵国軍の撃破に全力を投じるため、特に着上陸侵攻が予想される場合は即応予備自衛官、予備自衛官を活用し、住民の避難等の国民保護に当たることが「防衛省・防衛装備庁国民保護計画」でも想定されています。
防衛招集、国民保護派遣を問わず、有事になれば即応予備自衛官、予備自衛官が国民保護措置に従事する可能性は高いと思われますので、知識としてどのような活動をするのか知っておくのも良いかと思います。