予備自衛官雑事記

予備自衛官のあれやこれや

予備自衛官の災害派遣と公務員

※当記事は一般公開しても支障のない範囲で記述しておりますが、もし問題がある個所がありましたら筆者まで一報頂ければ幸いです。

 

 近年では即応予備自衛官災害派遣招集も当たり前のように行われるようになり、平成30年度だけでも平成30年7月豪雨と北海道胆振東部地震即応予備自衛官が招集されています。

 

 北海道胆振東部地震の際、小野寺防衛大臣(当時)は「即応予備自衛官の多くは地域に居住し、地の利をよく知っている。災害時の生活支援での役割は有効だ」と、現地住民ならではの能力を期待されるコメントをされています。熊本地震の際も同じようなコメントが出されていましたが、防衛省としては即応予備自衛官に期待するのは(少なくとも表向きは)「現地の事情に通じている」という点のようです。

 

 しかしながら、本業が公務員の予備自衛官にとって、この期待は心苦しいものがあります。なぜかというと、勤務先の自治体が被災しているのに自衛隊から災害派遣招集に来てくれと言われても”絶対に”無理だから。

 

 都道府県や市町村等の役所は大規模な被災となると通常の業務体制から災害時の体制へと移行します。学校の先生のように防災には一見関係なさそうな職員でも災害時には役割が割り振られています。当然、業務量は平時の何倍にもなりますし、当該自治体職員だけでは全く人員が足りないので国や他の地方自治体から応援職員もやってきます。

 

 場合によってはインフラや役所の設備も崩壊している中で、住民の要望を聞きつつ応援職員に指示を出し、ボランティアや自衛隊、警察、消防等とも調整を行わなければなりません。特に現在では自治体の正規職員数が大幅に減らされているので大規模災害ともなれば発災から数カ月は文字通り不眠不休のデスマーチ状態です。

 

 こんな状況で予備自の災害派遣招集に応じられるか? 絶対に無理です。

 

 実際に、平成28年の熊本地震の際には国、公共法人に勤務する即応予備自衛官にも招集を打診していますが、応じたのは6人中1人でした(応諾率16.7%)。全体の平均値である36.7%を大幅に下回っています(租税特別措置等に係る政策評価の点検結果(防衛省))。

 

 公務員の予備自衛官からしてみれば、逆に勤務している自治体から遠方で発災した方が招集に応じやすいでしょう。削減が続いているといっても平時であれば、都市部の自治体ならまだ職員に余裕はあります。中小企業に比べれば人員をやりくりする苦労は少ないはず。

 

 特に市町村は政令指定都市レベルでなければ遠方の被災地に職員を派遣することはほぼありませんから、東日本大震災級でもない限り災害が起こったからと言って急に忙しくなることはありません。予備自の1人や2人送り出すのにも支障はないかと思われます(勿論、時期にもよりますし、絶対に職場を空けられない仕事をしている職員もいたりしますのであくまでも一般論ですが)。

 

 防衛省熊本地震の際には地元在住の即応予備自衛官を中心に招集を打診していたようですが、平成30年の7月豪雨や北海道胆振東部地震では被災地から遠方の即応予備自衛官にも招集の打診を行っていたようです。本業が民間人にしろ公務員にしろ自分の家や職場が無茶苦茶になっている中で招集に応じろというのはやはり酷な話でしょう。

 

 自衛隊法施行令第八十八条でも「親族が死亡し、又は住居が滅失し、若しくは重大な災害をこうむつた場合において、当該予備自衛官以外にその後始末をする者がないとき」は災害招集命令の取り消しが認められています。

 

 個人的には災害派遣招集は被災地から遠方の即応予備自衛官を中心にしてもらい、被災地の即自は志願者を除き復興に専念したもらうのもよいのではないかと思います。

 

 手当をもらっているんだから招集に応じて当然だ、と思われる人もいるかもしれませんが、被災して招集に応じることができなかった予備自衛官は、また別の場所で災害が起こった時に活躍してもらえばよいではありませんか。

 

 予備自衛官には当然ながら本業があり、守らなければならない生活があります。今後も災害派遣招集は続くでしょうが、今までの経験を通して防衛省がより良い運用体制を築いてくれるよう願っております。