予備自衛官雑事記

予備自衛官のあれやこれや

予備自衛官が防衛招集されたらどれぐらいの期間になるのか?

※当記事は一般公開しても支障のない範囲で記述しておりますが、もし問題がある個所がありましたら筆者まで一報頂ければ幸いです。

 

 予備自衛官即応予備自衛官の招集については以下の5種類があります。

 

防衛招集

国民保護等招集

治安招集(即応予備自衛官のみ)

災害等招集

訓練招集

 

 この内、訓練招集については予備自衛官が年5日(正確には年20日以内)、即応予備自衛官が年30日と決まっています。また災害等招集についてはおおむね1週間から2週間の期間で行われているようです。招集命令書の発するに当たっては事前に防衛省側から意向確認もなされるようで、もし出頭できない事情があれば断ることも出来るとのこと。

 

 それでは、防衛招集命令が発せられた場合、予備自衛官の招集期間はどれぐらいになるのでしょうか? いざ有事(戦争)となれば規模(島嶼での局地戦か、全面戦争による国家滅亡の危機か)にもよりますが、いくら短くとも数カ月、場合によっては年単位で戦闘が続くと考えられます。当然、即応予備自衛官はもとより、予備自衛官にも招集がかかるでしょう。

 

 まず、防衛招集の場合、自衛隊法第百十九条で「正当な理由がなくて指定された日から三日を過ぎてなお指定された場所に出頭しないもの」については「三年以下の懲役又は禁錮に処する。」と定めているため、刑務所に入る覚悟でもない限り予備自衛官即応予備自衛官は出頭を拒否できません(即応予備自衛官は治安招集命令についても同様の罰則が科されます。ついでに言うと、国民保護等招集、災害等招集については罰則無しですが、訓令等に基づく免職処分の対象となりうることに注意)。

 

 恐らく現段階では防衛省も、有事に予備自衛官をどれぐらいの期間で招集するかまでは考えていないと思われますが、法令上は予備自衛官を招集できる期間について定められています。

 

自衛隊

(退職の承認)

第四十条 第三十一条第一項の規定により隊員の退職について権限を有する者は、隊員が退職することを申し出た場合において、これを承認することが自衛隊の任務の遂行に著しい支障を及ぼすと認めるときは、その退職について政令で定める特別の事由がある場合を除いては、任用期間を定めて任用されている陸士長等、海士長等又は空士長等にあつてはその任用期間内において必要な期間、その他の隊員にあつては自衛隊の任務を遂行するため最少限度必要とされる期間その退職を承認しないことができる。

 

(任用期間及びその延長)

第六十八条 前条第一項又は第二項の規定により予備自衛官に任用された者の任用期間は、任用の日から起算して三年とする。

2 防衛大臣は、予備自衛官(第七十条第一項各号の規定による招集命令を受け、同条第三項の規定により自衛官となつている者を含む。)がその任用期間が満了した場合において、志願をしたときは、引き続き三年を任用期間として、これを予備自衛官に任用することができる。この場合における任用期間の起算日は、引き続いて任用された日とする。

3 防衛大臣は、予備自衛官が第七十条第一項各号の規定による招集命令を受け、同条第三項の規定により自衛官となつている場合において、当該自衛官予備自衛官としての任用期間が満了したことにより退職することが自衛隊の任務の遂行に重大な支障を及ぼすと認めるときは、当該自衛官が第七十六条第一項の規定による防衛出動を命ぜられている場合にあつては一年以内の期間を限り、その他の場合にあつては六月以内の期間を限り、その者の任用期間を延長することができる。

 

(防衛招集、国民保護等招集及び災害招集)

第七十条 防衛大臣は、次の各号に掲げる場合には、内閣総理大臣の承認を得て、予備自衛官に対し、当該各号に定める招集命令書による招集命令を発することができる。

(中略)

3 第一項各号の招集命令により招集された予備自衛官は、辞令を発せられることなく、招集に応じて出頭した日をもつて、現に指定されている階級の自衛官となるものとする。この場合において、当該自衛官の員数は、防衛省の職員の定員外とする。

4 前項本文の場合においては、当該自衛官の任用期間は、第三十六条の規定にかかわらず、その者の予備自衛官としての任用期間によるものとし、当該自衛官については、第四十五条第一項の定年に関する規定は、適用しない。

(中略)

9 第六十八条第三項の規定により任用期間が延長されていた自衛官が招集を解除された場合においては、招集の解除の日をもつて予備自衛官の任用期間が満了したものとする。

 

 

 なお、これら予備自に係る規定は即応予備自衛官についても第七十条第三項を除き(即自については第七十五条の四第3項で別途同様の規定がされている)準用されます。

 

 防衛省が条文をどう解釈、運用するかにもよりますが、防衛招集された場合の最大招集期間は予備自の残任期に加えて1年間(六十八条第三項による1年の延長)となります。つまり、任期継続した直後に防衛招集された場合は予備自の任期3年プラス1年で最大4年間招集される可能性があるという事になります。もちろん、任期継続を希望すれば招集期間も延長されるでしょう。

 

 現実には4年間も続くような戦争に日本が巻き込まれることはないでしょうが、数カ月~1年程度の招集は当然に考えられる事態ですし、法令上はそれだけの期間、予備自衛官を招集することが可能です。

 

 そこで予備自衛官にとって気になるのは、長期の招集になった場合に現在の仕事はどうするのかという点です。招集されている間は休職扱いにして、招集解除後にまた戻って仕事をさせてくれるような会社ならありがたいのですが、少なからぬ企業で「すまないが辞めてくれ」という話になるのではないでしょうか。雇用企業協力確保給付金制度があるとはいえ、従業員が招集されてしまえば新たに人を雇わないといけないし、招集解除されて帰って来たらどう扱うかという問題(余剰の人員を抱えることになる)も発生します。

 

 更にこれがイラク戦争時の米軍予備役や州兵のように、同一人物が繰り返し召集されるような事態になると、予備自衛官の人生設計自体が崩壊しかねません。

 

 自衛隊法七十三条第二項は、「すべて使用者は、被用者が予備自衛官であること又は予備自衛官になろうとしたことを理由として、その者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱をしてはならない。」と定めておりますが、長期招集される従業員を解雇することが七十三条違反になるのか事例も判例もありませんので、何とも言えないところです。何より罰則のない条文ですので実効性があるかどうかも微妙。

 

 即応予備自衛官災害派遣されるようになって雇用企業協力確保給付金制度や、その他各種支援制度が整えられていったのと同じように、予備自衛官が有事に招集されるような事態にならないとこの問題も進展しないのかもしれません。

 

 ただ、今のまま有事に突入すれば、招集解除後に貧困化する予備自衛官が大量に生み出される結果にもなりかねません。適切な行政、立法措置等が望まれますが、道は長そうです。

 

 ちなみに防衛招集、治安招集は出頭しなければ罰則があると書きましたが、以下の通り条件付きで招集命令の取り消し、猶予、解除が認められる場合があります。万が一のために頭の片隅に入れておけば損はないと思います。

 

自衛隊

第七十条第5項 第一項各号の規定による招集命令を受けた予備自衛官が心身の故障その他真にやむを得ない事由により指定の日時に、指定の場所に出頭することができない旨を申し出た場合又は招集に応じて出頭した予備自衛官についてこれらの事由があると認める場合においては、防衛大臣は、政令で定めるところにより、招集命令を取り消し、又は招集を猶予し、若しくは解除することができる。

 

自衛隊法施行令

(防衛招集命令、国民保護等招集命令及び災害招集命令の取消し等)

第八十八条 法第七十条第一項各号の規定による招集命令を受けた予備自衛官は、次の各号のいずれかに掲げる事由により招集に応ずることができない場合には、直ちに防衛大臣の定める様式による申出書に市町村長の証明書(第一号に掲げる事由によるもの、第二号中配偶者若しくは一親等の血族の負傷若しくは疾病によるもの又は第三号に掲げる事由によるものにあつては、病名、負傷の程度、負傷又は疾病の原因、病後の経過、治癒の見込みその他参考となる所見を記載した医師の診断書及び市町村長の証明書)を添えて防衛大臣に申し出なければならない。

一 心身に故障を生じたとき。

二 配偶者又は一親等の血族が死亡し、又は負傷若しくは疾病により重態であるとき。

三 同居の親族が負傷又は疾病により重態であつて、当該予備自衛官以外にその看護をする者がないとき。

四 親族が死亡し、又は住居が滅失し、若しくは重大な災害をこうむつた場合において、当該予備自衛官以外にその後始末をする者がないとき。