意外とたくさんある予備自衛官雇用企業への支援制度
※当記事は一般公開しても支障のない範囲で記述しておりますが、もし問題がある個所がありましたら筆者まで一報頂ければ幸いです。
防衛省は予備自衛官等の定員確保を目的として、雇用企業の負担を減らし企業側のインセンティブを高めるべく様々な政策を実施しています。防衛省ホームページのリーフレットを見てもらえれば紹介されていますが、記載されてないものもありますのでまとめて紹介してみたいと思います。なお、実際にこれらの制度を活用されるという方はまず地方協力本部にご相談を。
即応予備自衛官雇用企業給付金制度
即応予備自衛官は年間30日の訓練招集が課され、また有事には第一線での活躍が期待されていることから雇用企業側の負担もそれ相応のものとなります。近年では即自の災害招集も珍しくなく企業側の苦労も軽いものではないでしょう。
このような雇用企業の負担に報いるため、防衛省では即応予備自衛官を雇用する企業に対して一人当たり年額51万円(月額42,500円)の企業給付金を支給しています。なお、即応予備自衛官を雇用していれば無条件に支給されるわけではなく、次のような条件が付きます。以下、抜粋。
即応予備自衛官雇用企業給付金支給要綱
(定義)
第3 この要綱において、次の各号に掲げる用語の意義は、次のとおりとする。
⑴雇用企業 即応予備自衛官(災害等招 集命令を受け、自衛官となっている者を含む。以下同じ)を雇用する法人その他の団体及び自家営業主をいう。ただし、国、地方公共団体及び法人税法(昭和40年法律第34号)別表第1に掲げる公共法人は除くものとする。
(給付金の支給要件)
第4 給付金は、次の各号のいずれにも該当する雇用企業に対し、予算の範囲内において支給することができる。
⑴即応予備自衛官との間に次の事項のいずれにも該当する雇用関係を有してい ること。
ア 1週間の所定労働時間が30時間以上であること
イ 申請時において、1年以上引き続き雇用されることが見込まれること
⑵ 即応予備自衛官が訓練招集及び災害等招集に応じる期間を有給の特別休暇、勤務免除扱いとする等労働協約又は就業規則等により措置することによって不利益な取扱いをしないことが明らかであること。
⑶雇用企業内において即応予備自衛官制度等の周知に努めること。
これを読んでアルバイトは対象に入るのかと思われた方もいるかもしれませんが、私が即自をやっていた頃(といってももう5年以上前の話ですが)は給付金の対象外でした。今は制度が変わっているかもしれませんので一度、地本に確認してみてはと思います。
「法人税法別表第1に掲げる公共法人」についてはこちらを参照ください。
なお、この給付金は即応予備自衛官を雇用すれば自動的にもらえるわけではなく雇用企業側からの申請が必要です。ご注意を。
予備自衛官等協力事業所表示制度
事業所が予備自衛官等の雇用を通じて社会貢献を果たしていることを防衛省として認定し、認定された協力事業所に対して、防衛省から「表示証」を交付すると共に、認定された協力事業所を、防衛省HP・地方協力本部HP等で予備自衛官等協力事業所として紹介する制度です。消防団協力事業所表示制度の予備自版といったところでしょうか。
なお、「表示証」のデザインはこんな感じ。地本長認定事業所は表示証の縁のデザインが銀色、大臣認定事業所は金色です。
地本長認定協力事業所と防衛大臣認定協力事業所の2種類があり、当然、認定されるのは後者の方が難しいです。因みに認定だけ受けてホームページへの掲載は断ることも出来るみたいです(大臣認定事業所一覧の末尾に「※防衛省HPへの掲載については、承諾をいただいた事業所のみを掲載しています。」と記載されているので)。大臣認定を得るのは簡単ではなさそうですが、長年出頭率が良ければ即応予備自衛官が1人在籍しているだけでも認定されることがあるみたいです。
国民の9割が自衛隊に良いイメージを持っている現在、協力事業所として認定されるのは社会的にもプラスだと思います。自衛隊側から自動的にもらえるものではなく企業側から申請しないと認定されないので、もし職場に予備自衛官が何人か在籍されているならば、雇用企業側に「こういう制度もありますよ」と伝えてみてはいかがでしょうか。
雇用企業協力確保給付金制度
予備自衛官等が防衛出動、国民保護等派遣、災害派遣等の招集に応じた場合や、各招集中における公務上の負傷等により平素の勤務先を離れざるを得なくなった場合において、その職務に対する理解と協力の確保に資するための給付金(雇用企業協力確保給付金)を雇用主の方々に支給する制度を制度。施行されたのは比較的最近です。
元々、東日本大震災や熊本地震で災害招集を行った際に予備自衛官等が本業を離れざるを得ず、その間の雇用主の方々に対する支援の必要性が明らかとなったため作られた制度との事。
予備自衛官又は即応予備自衛官を雇用する法人その他団体及び個人事業主(国、地方公共団体及び公共団体は除く)に対し、防衛出動、国民保護等派遣、災害派遣等のため招集に応じ平素の勤務先を離れた場合や、招集中における公務上の負傷又は疾病により平素の勤務先を離れた場合に、日額34,000円×日数分を支給するというものですが、招集中の負傷、疾病による治療の場合は最大90日間という制限があります(自衛隊法七十三条の三第1項第二号及び自衛隊法施行令第九十七条の四)。
なお、この制度も雇用企業側からの申請があって初めて支給されるものなので、対象となる予備自衛官の皆さんはあらかじめ職場に伝えておいた方がよいと思います。
雇用主に対する情報提供制度
訓練招集日程、訓練期間等を予備自雇用企業に通知する制度。これまで予備自衛官の訓練招集の日程は予備自衛官自身が職場と調整して行っていました。この制度によって防衛省側から訓練の日程や期間等を事前に雇用企業に通知することで、業務に無理がないように調整できるとの趣旨で始まった制度の様です。
確かに、職場で何人もの予備自衛官を雇用されている企業さんには訓練招集であらかじめローテーションを組むことができ、ありがたい制度ですね。また、災害招集を受けた時など、どこに、どれぐらい派遣されどのような任務に従事するのか自衛隊側から通知があれば企業側の不安も緩和できるのではないでしょうか。
なお、例によってこの制度を活用するには雇用企業側からの申請が必要であると同時に、防衛省が予備自衛官本人に対して同意を得たうえでの実施となります。申請雛形などはこちらから閲覧できますのでどうぞ。
総合評価落札方式における予備自衛官の評価
こちらは建設業関係の方しか関係しませんが…。
防衛省が発注する自衛隊施設での建設工事の総合評価落札方式において、予備自衛官を雇用し現場に配置している企業に加点するという制度です。総合評価落札方式とは、入札において金額だけでなく入札者が示す様々な要素(技術提案等)を含めて落札者を決定するという制度です。
予備自衛官を雇用していればなぜ加点につながるのかというと、自衛隊の施設で工事を行う際に、一番現場に詳しいのはやはり自衛隊で勤務していた予備自衛官だからというわけです。なので、当然ながら工事を行う駐屯地に勤務していた予備自衛官を現場に配置する場合は加点される点数も一番高くなります。下請け企業が予備自衛官を現場に配置する場合も加点は適用されます。
他にも様々な条件がありますが詳細はこちらをご覧ください。
以上、紹介してきましたが、ここ10年で予備自衛官制度を普及させるための施策はだいぶ充実してきたのではないかと思います。私が初めて予備自衛官になった頃は、即応予備自衛官雇用企業給付金制度しかありませんでした。
恐らく東日本大震災、熊本地震と即応予備自衛官の招集が重なるにつれて雇用企業に対する支援策を充実させないとただでさえ充足率の低い予備自衛官制度(特に即自)が立ちいかなくなるとの危機感が防衛省・自衛隊にもあったのでしょう。
個人的には被災地での即応予備自衛官の活躍がメディアで取り上げられることによって、予備自衛官制度が世間に周知され普及していけばいいなと思っております。ただ、災害のたびに招集があるとなれば負担に感じる雇用企業が出てくるのもまた必然。これからも予備自衛官が後顧の憂いを残さず招集に応じられる体制づくりに防衛省・自衛隊が尽力して頂ければと存じます。