予備自衛官雑事記

予備自衛官のあれやこれや

採用年齢を引き上げるのは良いとして・・・

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 予備自衛官補(一般)の採用年齢上限が52歳未満まで引き上げられるとの事。

 

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 今後何かしら追加情報が発表されるのかもしれないが、とりあえずは今出ている情報だけで所感を述べてみたい。

 

 年齢の引き上げ自体は良い事かと思うが、それだけだと50代の予備2士が誕生する可能性もある。有事にどのような運用をするつもりなのだろうか。

 

 有事における予備自衛官の主任務は駐屯地等の後方警備だが、その中でも2士がやる仕事は部隊末端としての歩哨が主である。常備自衛官ならば10代~20代前半の陸士がやる仕事だ。勿論、不審者や敵が侵入してきた場合、制圧する事も任務に含まれているわけで、こう言っては何だが“老兵”には荷が重すぎるのではないか。

 

 或いは駐屯地の恒常業務で事務仕事や整備をやらせようというのか。それとも定員割れしている(もしくは訓練を修了して任官する人数が少ない)のでともかく志願者を多く集めて充足率を上げたいと言う事だろうか。

 

 確かに有事となれば人はいくらいても足りなくなるだろうが、現行の予備自衛官補制度を採用年齢上限だけ緩和しても合理的な人材運用にはならないのではないかと思う。今回の上限緩和で新たに対象となる年代は30代中頃から50代前半にかけてだが、既に体力の全盛期を過ぎており“兵隊”としての能力は低い。この年代が一般社会で求められるのは監督職、管理職としての能力であり、自衛隊側としてもそれだけの能力を持った人材を期待し、尚且つ2士にするのではなくて相当な待遇を用意すべきだろう。

 

 例えば民間会社で経理の課長をやっていた人物を予備自衛官補(一般)として採用し、2士に任官させて駐屯地の警備に従事させるとしたら、それはまさに人材の浪費としか言いようがない。民間会社での地位と能力・経験を考慮して適切な教育を行い、相応の階級で会計業務に就かせるべきだ。

 

 そのために、最初は任官者全員が予備2士になるのは仕方ないとしても、例えば予備陸曹候補生試験や予備幹部候補生試験の様なコースを用意して、希望する者は学歴や本業での能力を考慮した上で選抜し、より上位の階級に進めるような制度を用意すべきではないか。ちなみにポーランドの領土防衛軍(パートタイマーの軍人による郷土防衛部隊)では下士官や将校の養成コースが用意されている。

 

 予備自衛官等制度では一定の国家資格・公的資格保持者を除き自衛隊以外での職歴、学歴は階級に影響しない(有事に招集された際の俸給算定に影響する場合がある程度)。昇進についても国家資格等による昇進を除き技能や能力ではなく訓練出頭日数に寄るところが大きい。

 

 だが会社である程度の地位にあり、マネジメントの経験を持つ中年世代が、予備自衛官補(一般)の採用試験に受かり、本業との兼ね合いに苦労しつつ50日の教育訓練を修了して任官できるのが予備2士というのでは、魅力的と言えるだろうか。しかも昇進に必要な期間は長く、自身の能力はほぼ関係ない。

 

 防衛省自衛隊側としては訓練日数が制限される以上、短期間で陸曹や幹部に必要な能力を付与することは出来ないと考えているかもしれないが、予備自衛官補の訓練にeラーニングが導入され、また一般財団法人防衛支援事業団など防衛省の業務を部外委託できる組織がある現在、工夫しだいによって訓練機会を増やすことは可能だろう。夜間大学の様に平日の夜や休日に地本等の施設を利用して防衛支援事業団職員を講師として座学を行うなど、やりようはいくらでもあると思う。また若年層の予備自衛官についてもこのように教育の機会が増えれば能力とモチベーションの向上につながるだろう。

 

 もっとも、防衛省自衛隊の意図が「ともかく充足率を上げるために年代はどうでもいいから頭数を集めたい」というのであれば、こんなことをやってる場合ではないのかもしれないが・・・。

能登半島地震で即応予備自衛官、予備自衛官の招集が決定

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 最大約100名の招集になるとの事。内訳は予備自衛官(医療従事者)10名、即応予備自衛官90名。

 

 令和2年7月豪雨の即自300名、予備自54名や令和元年台風19号災害の即自368名、予備自53名に比べると小規模ですが、今回は長期間の生活支援活動に従事すると言う事なので、現場で活動する即自、予備自を順次交代させつつ活動期間を長く取るつもりなのかもしれません(即自、予備自の災害招集期間は最短1週間程なので、最初から参加可能な人員全てを招集してしまうと補充が追い付かなくなり活動期間自体が短くなってしまう。また活動期間が長期に渡れば即自、予備自側も日程調整がしやすくなり参加可能な人員も増える)。

 

 詳細は以下の防衛大臣臨時記者会見を参照下さい。

 

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国会議事録と予備自衛官

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 私がブログ関係でネタ探しをするとき、たまに調べたりするのが国会の議事録です。予備自衛官制度なんて国会で話題になることも無いだろう・・・と思われるかもしれませんが、国会会議録検索システムで検索するとそれなりに議員側から質問が出ていることが分かります。また防衛省の広報媒体に記載されていない情報が出てきたりもするので貴重な情報源にもなります。

 

kokkai.ndl.go.jp

 

 直近では第212回国会の衆議院安全保障委員会参議院外交防衛委員会予備自衛官について取り上げられています。内容はサーバー人材の確保に関するものや人的基盤の強化に関する有識者検討会の報告書に関するもの、或いは予備自衛官の手当の金額についてなど。ちなみに以前から予備自衛官について比較的頻繁に質問されているのは自衛隊出身の佐藤正久参議院議員です(公務員の予備自衛官が訓練参加に職免が使えないという話をしたのも佐藤議員)。

改めて本業が公務員の予備自衛官について防衛省が改善した方が良い点を考えてみる

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 令和5年度防衛省行政事業レビューを始めとして近々に公表された防衛省の各種資料では予備自衛官等制度について抜本的な制度の見直し、体制の強化を図ると明言されており、実際に防衛省内では作業が進んでいると考えられる。

 

 一方、予備自衛官等を兼ねる国家公務員、地方公務員について防衛省はこれまで「国家公務員等が予備自衛官補を兼ねる場合の教育訓練招集手当の支給について(通知)(平成27年3月31日防人育第5841号)」、「予備自衛官等を兼ねる国家公務員等が訓練招集等に応じた場合の勤務先である所轄庁の取扱いについて(通知)(令和元年防人育第4666号)」等によって運用の整理を図ってきたところである。

 

 また、令和5年7月12日に公表された「人的基盤の強化に関する有識者検討会」による報告書では「公務員が訓練等に応じて、平素の勤務先を離れる場合、給与が減額されるため有給休暇を取得」(第4回会議資料2の16ページ)が重点検討項目として挙げられており、国家公務員、地方公務員の予備自衛官等に関する問題点について防衛省側もある程度は把握しているのであろう。

 

 公務員の予備自衛官についてはこれまでも何回か記事にしてきたが、今回は法令・規則・制度等で改善して欲しい点についてまとめていきたいと思う。

 

 まず、第一点は「消防団を中核とした地域防災力の充実強化に関する法律(以下、消防団充実強化法)」の予備自衛官版を作ってほしいという事。この法律では公務員が消防団員を兼ねる事について以下のように規定している。

 

(公務員の消防団員との兼職に関する特例)

第十条 一般職の国家公務員又は一般職の地方公務員から報酬を得て非常勤の消防団員と兼職することを認めるよう求められた場合には、任命権者(法令に基づき国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)第百四条の許可又は地方公務員法(昭和二十五年法律第二百六十一号)第三十八条第一項の許可の権限を有する者をいう。第三項において同じ。)は、職務の遂行に著しい支障があるときを除き、これを認めなければならない。

2 前項の規定により消防団員との兼職が認められた場合には、国家公務員法第百四条の許可又は地方公務員法第三十八条第一項の許可を要しない。

3 国及び地方公共団体は、第一項の求め又は同項の規定により認められた消防団員との兼職に係る職務に専念する義務の免除に関し、消防団の活動の充実強化を図る観点からその任命権者等(任命権者及び職務に専念する義務の免除に関する権限を有する者をいう。)により柔軟かつ弾力的な取扱いがなされるよう、必要な措置を講ずるものとする。

 

※ちなみに「職務の遂行に著しい支障があるとき」とは「例えば、国家公務員においては、通常の勤務時間外において、国民の生命又は財産を保護するための非常勤務に従事する義務が課されている危機管理用宿舎又は防災担当職員用宿舎に入居している防災担当職員など、一定の状況が生じた場合、通常の勤務時間外においても、一定の時間内に勤務場所等に到着して一定の業務に従事する義務が課されている職員が消防団活動を行うことにより当該義務を履行できなくなる場合」を指す。また職務専念義務免除について「国家公務員については、政令第2項において、職務専念義務の免除の承認の請求があった場合、公務の運営に支障がある場合を除き、承認しなければならないとされているところ、公務の運営に支障がある場合とは、職務専念義務の免除の承認を請求した職員に求められる職務の遂行に支障がある場合ではなく、当該職員が所属する組織の運営に支障がある場合をいい、この場合を除き、職務専念義務の免除を承認しなければならない」としている。要するに「お前、仕事忙しいんだから」という理由だけでは「職務の遂行に著しい支障があるとき」、「公務の運営に支障がある場合」とは認められないという事。

 

参照

 

消防団を中核とした地域防災力の充実強化に関する法律第十条第一項の規定による国家公務員の消防団員との兼職等に係る職務専念義務の免除に関する政令(平成二十六年政令第二百六号)

 

消防団を中核とした地域防災力の充実強化に関する法律第十条第一項の規定による国家公務員の消防団員との兼職等に係る職務専念義務の免除に関する政令等の公布について(通知)(平成26年6月11日消防地第46号)

 

 公務員が予備自衛官になろうとした時に、一番のハードルが「兼業許可」の取得である。基本的に官公庁で兼業申請を出す人はあまりいないし、ましてや予備自衛官となると大多数の役所で初めての事例となるだろうから、申請の為の資料作成から上司、人事担当部署への説明まで結構な労力を必要とする事になる(無論、地本の担当部署も職場に説明に来たり色々と協力はしてくれるが)。

 

 そして一番の問題は上司や人事部署の判断であっさり却下されてしまう場合がままあるという事だ。予備自衛官について消防団充実強化法と類似の法令が出来れば官公庁側は上記に挙げた特殊な事情でもない限り予備自衛官等の兼業申請を認めないわけには行かなくなるので、ハードルはほぼ消滅する。

 

 訓練招集参加についても防衛省から職免を基本とするとの通知が出ているが、特に地方公務員については最終的に勤務先の自治体の判断となるため、現状では職免が認められたり、認められずに有給休暇で参加したり、逆に職免は認めるが有給休暇を取得しての参加は認めない自治体もあるなど対応がバラバラである。これも消防団充実強化法と同じような規定が出来れば職免による訓練参加に統一されていくだろう。また、防衛招集がかかった場合を考えてもその方が望ましいと考えられる。

 

 二つ目に上げたいのが防衛招集時の対応について予め規定して欲しいという事。予備自衛官等が実任務で招集されたのは現在のところ災害招集に留まっているが、もし有事になれば防衛招集等で長期間の招集になることも想定される。例えば地方公務員の予備自衛官については加入する地方公務員共済組合から国家公務員共済組合に移ることになると考えられるが、有事の際は招集まで時間的余裕があるとも思えず、また国共済だけでなく勤務先を通じて地共済とも書類提出等の手続きを行わなければならない為、平時よりどのような書類、手続きが必要か予め示してもらえるとありがたい。

 

 また、招集されている間は公務員の勤務先での扱いは恐らく無給の職免という事になると思うが、この扱いについても法令で予め規定した方が有事の際に手続き上の混乱を避けられるであろう(例えば公務員が現職のままJICA海外協力隊へ参加する場合は「国際機関等に派遣される一般職の国家公務員の処遇等に関する法律」及び各規則、「外国の地方公共団体の機関等に派遣される一般職の地方公務員の処遇等に関する法律」及びそれに基づく各地方自治体の条例により運用が規定されている)。

 

 三点目は各種給付金の支給である。予備自衛官等制度には雇用企業の負担に報いるため「即応予備自衛官雇用企業給付金」、「即応予備自衛官育成協力企業給付金」、「雇用企業協力確保給付金」等の給付金制度があるが、国、地方公共団体及び公共団体は除くとなっている。この理由については、「国については防衛政策を行う主体であることから除外し、営利を目的としない地方公共団体及び法人税法別表第1に掲げる公共法人についても、公共性が強く国の政策に協力させるためのインセンティブを与えるという給付金の趣旨から支給の必要性がないと考え除外した(即応予備自衛官雇用企業給付金支給要領逐条解説)」とされている。

 

 しかしながら、例えばJICA海外協力隊では地方公務員が現職参加した場合、勤務先の地方自治体には現職参加者を継続して雇用することを促進するための経費として現職参加促進費が民間企業と同様に支払い対象となっている(但し国家公務員は対象外。これは海外協力隊が国の事業(ODA)の一環として行われているからか)。現在、全国の地方自治体は厳しい財政状況と人員削減の中にあり、また通常の訓練招集に加えて昨今の国際情勢を鑑みるに今後防衛招集が発出される可能性もあることから、地方自治体に対する負担を軽減するために前述の予備自衛官等関係給付金は支給対象とするのが妥当ではないだろうか。

 

 この問題については、訓練招集や災害派遣招集、防衛招集などで予備自衛官の職員が職場から抜ける負担は自治体も民間企業と変わらないのに、「営利を目的としない」との理由だけで給付金対象から除外するのは整合性が取れないのではないかと思う。また予備自衛官の兼業許可が地方自治体の判断にゆだねられている現状では、給付金が認められるだけで地方自治体側の心象も変わり、申請が認められやすくなるという利点もあるのではないか。

 

 国家公務員及び地方公務員の予備自衛官等については古い資料だが平成24年度時点で予備自衛官約1,300人、即応予備自衛官約50人、予備自衛官補約50人がいるとの事である(第180回国会 衆議院予算委員会第一分科会 第1号 平成24年3月5日)。公務員については民間企業と比較して予備自衛官等の勤務を継続しやすい労働環境にあると思うので、予備自衛官等の充足率向上のためにも防衛省には安心して予備自衛官等になれるような制度改正をこれからも進めて頂きたい。

防衛省行政事業レビュー(令和5年)について

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 令和5年行政事業レビューの公開プロセスが防衛省のホームページに上がっています。

 

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 今年度の行政事業レビューでは予備自衛官等制度も対象となっており、外部有識者より予備自衛官等制度の改善点について議論がなされています。内容としては予備自衛官である私から見ても同意できる点が多々あり、防衛省としても意義のあるものだと感じます。議事録も公開されておりますので興味ある方は少々長いですが一読してみる価値はあるでしょう(手早く確認したい方は取りまとめコメントで要旨を確認できます)。

 

 取りまとめコメントには「訓練内容をやりがいのあるものにアップデート」という記述もありましたが、予備自衛官に関しては年間参加可能日数が基本5日間(本来は20日以内)とそもそも少なすぎるのです。受入部隊の都合等もあるので簡単に訓練招集の日数や受入人員を増やせないのは分かるのですが。

 

 私見ですが、地本計画で1日座学だけの招集訓練を年何回か設定するとか、ともかく訓練参加の機会を増やし間隔を短くしないと、年間の訓練参加回数が1~2回だけでは知識や技能も定着せず、モチベーションは上がりません。あるいは座学の担当者として定年退職組や一定の資格を持つ予備自衛官を活用すれば常備隊員の負担も減らせると思います。

 

 また「自衛隊に関連する民間委託業務を拡大し、当該業務に関わる場合、予備自衛官等の一定人数の雇用を条件に」するとの意見もありましたが、先日の那覇駐屯地等での給食業務停止を見るに給食調理業務の委託などまさに丁度よい案件ではないでしょうか。

 

 議事録を見る限り、防衛省側も充足率低下の原因自体は把握している様です。あとはどれだけ効果的な施策を実施できるかどうかですが・・・。

予備自衛官補(技能)が予備自に任官する際の階級について

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 以前、予備自衛官補(技能)が予備自衛官に任官した際の指定階級について記事にしておりましたが、技能区分によってだいぶ変化しているため改めてリンク先を提示しておきたいと思います(海上予備自衛官補についてはこちらに記載がないため採用要項を参照)。

 

(リンク先の「技能公募予備自衛官に任用後の階級について」)

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 以前からの変更点としては、通信(システム防護)、人事(遺体衛生保全士(エンバーマー)、納棺士、保育士)が新設されたこと、技能・甲(幹部階級を指定)に看護師が加わったこと等が挙げられます。なお、以前は准看護師の指定階級が3等陸曹でしたが、現在は年齢や職務経験年数によって2曹、1曹にも任官できるようになっています。

自衛官候補生募集の要は在職中の待遇ではなく退職後の進路

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 自衛隊の募集難が続いています。特に自衛官候補生は採用数が計画数の半分を割り込む事態に陥っているのだとか。報道によると防衛省は希望者が少ない理由の一つに任期の短さがあるとして、新たに任期を4年とする案を考えているらしいのですが、正直効果があるかどうか・・・。

 

 自衛官候補生について言えば入隊後数年での退職を前提とする以上、志望者増加に有用なのは退職後にどのような進路が待っているかが大きいと思います。任期制隊員の再就職は援護を通す事が多いと思いますが、必ずしも好条件の仕事ばかりではなく、将来性があるかと問われれば微妙と言わざるを得ません。俸給が少しばかり上がったり任期を延長したとしても、退職後の展望が見えなければ志望者増には繋がりにくいのではないか。

 

 この点についていえば、防衛省はもっと「任期制自衛官退職時進学支援給付金」制度を前面に押し出して広報すべきではないかと思います。これは任期満了退職した自衛官四年制大学に進学すると同時に即応予備自衛官に任用された場合、在学中に毎年27万1千円(予備自衛官の場合は4万5千円)の給付金(返済不用)が支給されるというものです。

 

 経済的な理由で大学進学が難しい高校生にとって「給付金」+「営内生活(或いは艦艇勤務)で貯金」+「任満金」+「退職後に即自手当年約50万円」で自衛隊退職後に大学進学というのは結構刺さる内容だと思います。別途貸与型奨学金を借りる必要があったとしても金額を圧縮出来ますので大学卒業後に返済で苦労するリスクは減るのではないかと。

 

 制度の存在自体は自衛官候補生のパンフレットに記載されているものの、大きく紙面を取っているわけでもなく、また民間企業に再就職した先輩自衛官の声は掲載されていますが、大学に進学した自衛官経験談は記載されていません。キャンパスライフの写真と共に大学進学にあたってどのように勉強したかとか、社会人入試を活用したか等、大学に進学するための具体的な体験談を記載すれば尚更効果は高いと思います。

 

 防衛省としてもう一点、力を入れて欲しいのが、他職種の公務員に任期制隊員を再就職させること。公務員試験なんて難しいのは? と思われるかもしれませんが、例えば技術系公務員に関しては昨今の技術者不足から地方自治体が採用試験を行っても志望者が集まらず、土木職はまだしも建築職や電気職などは志望者が0人なんてこともあります。勿論、勉強は必要ですが、技術系公務員は現在圧倒的売り手市場で一昔前に比べて難易度は大幅に下がっているのでチャンスと言えます。工業高校等、関係する学科を卒業している隊員の再就職先として自衛隊としてもPRと支援してみてはどうかと。また事務職公務員や技能系公務員(バス運転手、現場作業員、調理師など)も以前と比べれば倍率は低下しています。

 

 高校生のなりたい仕事ランキングでは概ね上位に入る公務員(いやまぁ自衛官も公務員ですが・・・)ですので、自衛隊退職後、他職種の公務員になる自衛官を増やすことが出来れば募集面でもメリットは大きいでしょう。募集パンフレットでも「自衛隊を辞めた後、他職種の公務員として働いてる先輩が沢山いますよ。支援する制度もありますよ」とアピールできれば志願者増につながると思います。これも大学進学と同じように実際に公務員になった先輩隊員のメッセージを載せることが出来れば更に効果的かと。

 

 ともかく、俸給を上げるとか営内環境を改善することも勿論大事ですが、退職後の生活についてもそれなりに魅力的な未来を見せることが出来なければ人は集まりますまい。米軍のような手厚い保障は無理だとしても「魅せ方」次第で自衛官候補生のメリットは広げているのではないかと思います。

「勤務招集」制度が必要ではないか

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 予備自衛官等が招集されるのは通常の訓練招集と防衛招集、国民保護等招集、治安招集(即自のみ)、災害(等)招集で、訓練招集を除き内閣総理大臣の承認を得て防衛大臣が招集命令を発します。訓練招集以外の招集命令が発出される場合は当然なにがしかの非常事態が発生している(もしくは発生しようとしている)事が前提である訳で、例えば災害招集命令を予備自衛官等に出すためには、災害派遣が行われていなければなりません。

 

 このような現行の制度だと何もない平時に予備自衛官等を招集して何かしらの業務に当たらせる事が出来ません。例えばコロナワクチンの自衛隊大規模接種会場は災害派遣ではなく、自衛隊病院が通常業務の一環として実施する形態だった為、医療系予備自衛官の招集は不可でした。一方で米軍では業務に遅延が発生した場合、予備役を召集して業務に当たらせる事も可能です。

 

 防衛省自衛隊では防衛3文書等で予備自衛官等の役割を見直すとしていますが、予備自衛官を必要に応じて平時の業務に従事させる「勤務招集」制度を創設すれば、自衛隊組織全体の運用にも弾力性が増すのではないかと思います。思いつくところを上げれば現在は訓練招集の担当を全て現職自衛官が行っていますが、予備自衛官を勤務招集しその一部を代替させる、或いは東京オリンピックのような式典支援に予備自衛官を活用するなどが挙げられると思います。

 

 ちなみに自衛隊には任期付自衛官という、育児休養等の代替要員として一定期間に限って採用される制度もあるのですが、一般官公庁の任期付職員(一定の期間内に終了することが見込まれる業務、一定期間業務量が増大する場合に採用できる)の様にこの制度を拡充するというのも一つの方法かもしれません。

 

 予備自衛官等も防衛省の人的資源である訳ですから、非常時のみの戦力と拘らず、平時においても業務の増大等に対処するために活用を考えてみてはどうかと思います。そちらの方が予備自衛官即応予備自衛官の士気にも良い影響を与えるのではないでしょうか。

防衛省・自衛隊の人的基盤の強化に関する有識者検討会と予備自衛官

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 防衛省の人的基盤強化のため設置されていた「人的基盤の強化に関する有識者検討会」が防衛大臣宛に報告書を提出したとの事です。予備自衛官等制度については従来から提言されていた事(採用条件の緩和やインセンティブの付与等)が主ですが、会議資料を見ると色々分かることもあります。

 

 地味ですが議論が進んでいるんだなと思ったのは、第4回会議資料2の16ページに重点検討項目として挙げられている「公務員が訓練等に応じて、平素の勤務先を離れる場合、給与が減額されるため有給休暇を取得」について。

 

 これは佐藤正久参議院議員が国会で何度か言及されていましたのでその影響かとは思います。何かというと、公務員の予備自衛官については招集訓練参加に職務専念義務の免除(職免)を認める明確な根拠がない(防衛省は下記で述べる通り一応根拠はあると考えている。ちなみに消防団については「消防団を中核とした地域防災力の充実強化に関する法律(消防団充実強化法)」を根拠として職免が認められる)ため、年次有給休暇を使って参加せざるを得ない場合があるのですが、これを消防団と同じように職免で訓練参加できるようにしようという話です。

 

 一応、防衛省の考えとしては「予備自衛官等を兼ねる国家公務員等が訓練招集等に応じた場合の勤務先である所轄庁の取扱いについて(通知)」において国家公務員法第104条及び地方公務員法第24条に基づき訓練参加は職免とすることが基本との考えですが、国家公務員はともかく地方公務員については勤務先自治体の裁量によるため、法改正により消防団充実強化法のような確たる根拠を作ることが望ましいでしょう。

 

 更に言えば、消防団充実強化法第10条のような規定を盛り込めれば言うことはないのですが。

 

(公務員の消防団員との兼職に関する特例)

第十条 一般職の国家公務員又は一般職の地方公務員から報酬を得て非常勤の消防団員 と兼職することを認めるよう求められた場合には、任命権者(法令に基づき国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)第百四条の許可又は地方公務員法(昭和二十五年法律第二百六十一号)第三十八条第一項の許可の権限を有する者をいう。第三項において同じ。)は、職務の遂行に著しい支障があるときを除き、これを認めなければならない。

2 前項の規定により消防団員との兼職が認められた場合には、国家公務員法第百四条の許可又は地方公務員法第三十八条第一項の許可を要しない。

3 国及び地方公共団体は、第一項の求め又は同項の規定により認められた消防団員との兼職に係る職務に専念する義務の免除に関し、消防団の活動の充実強化を図る観点からその任命権者等(任命権者及び職務に専念する義務の免除に関する権限を有する者をいう。)により柔軟かつ弾力的な取扱いがなされるよう、必要な措置を講ずるものとする。

 

技能予備自衛官の定年延長について

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 防衛省のホームページに「技能予備自衛官の継続任用時の上限年齢廃止(試行)について」という記事が掲載されています。

 

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 現在、予備自衛官の年齢制限については陸自と空自の医官を除いて上限年齢が設定されておりますが、令和5年4月3日より技能予備自衛官の一部について上限年齢を廃止されます(まだ試行段階ですが)。

 

 廃止される分野は衛生(各自衛隊共通、条件有)、整備、電気、建設、放射線管理(以上陸自)、語学(空自)。今後、逐次対象技能を拡大していく予定とのことです。

コア部隊が廃止される件

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 令和4年12月16日に安保3文書(「国家安全保障戦略」・「国家防衛戦略」・「防衛力整備計画」)が発表されました。

 

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 この防衛力整備計画の中で、コア部隊の廃止するとしています(P12)。

 

 スタンド・オフ防衛能力、サイバー領域等における能力の強化に必要な増員所要を確保するため、即応予備自衛官を主体とする部隊を廃止し、同部隊所属の常備自衛官を増員所要に充てる。また、即応予備自衛官については、補充要員として管理する。

 

 また予備自衛官制度についての言及は以下の通り(P26)。

 

 作戦環境の変化や自衛隊の任務が多様化する中で、予備自衛官等が常備自衛官を効果的に補完するため、充足率の向上のみならず、予備自衛官等に係る制度を抜本的に見直し、体制強化を図る。このため、即応予備自衛官及び予備自衛官が果たすべき役割を再整理した上で、自衛官未経験者からの採用の拡大や、年齢制限、訓練期間等について現行制度の見直しを行う。

 

 コア部隊を廃止するという事は、即自については地本の管理となり、予備自と同じような形式で訓練に参加するという形になるのでしょうか。昔みたいに各部隊の中で1個中隊(大隊)をコア部隊にして運用するなんてことはもうしないと思いますので、平時は各部隊が実施する即応予備自衛官招集訓練に参加し、有事に招集された際は必要に応じてそれぞれの部隊に配属されるという形になるのか?

 

 防衛省は人員増を行うことなく既存人員の割り振りで防衛力を強化しようとしているようですが、コア部隊の廃止についてはそのせいで割を食った形に見えます。昨今の募集難や中途退職者の増加を見れば仕方がない事かもしれませんが・・・。

予備自衛官の階級章、帽章等の購入について

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 予備自衛官等の訓練では基本的に必要なものは官品で貸与されますが、人によっては私物を使いたい人もいるかと思います。私物の迷彩服に関しては対IR加工でない事と、万が一ケガをした際に公務災害(民間では労災)の対象とならないため使っている人はあまり見なくなりましたが、課業後などに使用する分には問題ないので現在でも使っている人はそれなりに居ます。また、作業帽については現職、予備自等問わず多くの隊員が私物を使用しています。

 

 この私物ですが、着用するためには階級章や帽章(現在、駐屯地売店で売られている作業帽には帽章が付いていないことが多い)を用意しなければなりません。これらについては駐屯地の売店ではなく駐屯地業務隊の厚生科で販売されています。

 

 

 営業日については平日のみで、営業時間も駐屯地によっては早めに終了してしまう事もあるみたいです。予備自衛官でしたら5日間訓練の内、分割出頭でも1日は平日だと思いますので、午前訓練の合間か昼休みにでも購入するのが良いかと思います。

 

 一応、予備自衛官等でも階級章や帽章は購入できるようですが、自衛隊の場合は「駐屯地や部隊によってルールが違う」なんてことがよくありますのでそこらへんはご注意を。

即自と予備自の訓練期間が短縮されるという話

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 以下の報道によると、防衛省は即自と予備自の訓練期間を短縮する方向で調整しているようです。

 

news.yahoo.co.jp

 

 予備自衛官等の定員割れに対し、防衛省としては練度(訓練日数)よりも充足率を優先するという方向で対策を進めるようです。

 

 これについては色々と意見があるとは思いますが、そもそも諸外国の予備役と比べて予備自衛官が少ない理由は財務省が予算を認めないからとかではなく、単純になり手が少ないからです。何故なり手が少ないのかと言えば勿論、待遇面も多少は影響しているでしょうが、大きくは仕事(本業)との兼ね合いが難しいという点に尽きます。記事にもあるように即自の充足率が約五割と低いのも仕事の都合で志願できる人が限られてしまうからです。

 

 この状況で防衛省が「予備自衛官等の定員を増やします! 予算下さい!」といっても財務省から「それならまず現在の定員を満たせよ。志願者がいないのに定員だけ増やしても何の意味もないだろうが」と言われて終わりです。そこで防衛省としてはとにかく「数」を確保するために(そして将来的な定員増のために)訓練日数を若干犠牲にするのはやむを得ないと考えたのでしょう。

 

 勿論、本筋から言えば、予備自衛官等を労働基準法に定める「公の職務」に認めるとか、「消防団充実強化法」の予備自衛官版をつくるとかの方が効果があるのでしょう。しかし今の日本でそれをやろうとすると、とてつもない政治的労力が必要だと思われます。従って防衛省としては充足率向上に一番「手っ取り早い方法」として訓練日数の短縮という判断を下したものと、個人的には予想しています。

 

 ただ、これで充足率が上がったとしても練度が下がっては意味がないので、訓練日数が減った分だけの対策は必要になってくると思います。既に予備自衛官補の教育訓練ではeラーニングが導入されているという話も伝え聞きますが、予備自衛官即応予備自衛官についてもこのような施策が必要となってくるでしょう。ポーランド軍では予備役(領土防衛軍)向けに体力錬成アプリを開発したりしていますが、予備自衛官等についてもここら辺はもっと改善の余地があると思います。

破傷風の予防接種と予備自衛官

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※最新かつ正確な情報を知りたい方は地方協力本部にご確認ください。

 

 破傷風とは破傷風菌が作る毒素によって引き起こされる感染症です。破傷風菌は通常、芽胞の状態で土の中に生息していますが、傷口などから体内に侵入すると増殖し毒素を出します。現在、日本では年間百人が破傷風を発病し、5~9人が死亡しているとの事です。

 

 自衛官はケガ等による感染リスクが高いため、入隊後に全員が破傷風の予防接種を受けます。またその後10年間隔で追加接種も行われています。

 

 ただ、予備自衛官即応予備自衛官については所属地本や部隊によって対応がバラバラのようです。無料で追加接種を受けることも出来るみたいですが色々と条件があったり、地本によってはそういう情報を予備自、即自に全然広報してくれず、こちらから聞かないと受けられないという所もあります。

 

 自費で受けた場合は数千円とはいえお金がかかりますし、また接種証明書を地本に提出を求められる可能性(自衛隊側が追加接種の有無を確認できないため)もありますので最終接種から10年以上経過していて破傷風の追加接種を考えられている方は、一度地本に問い合わせてみても良いかもしれません。

予備自衛官等関連資料 諸外国軍隊の予備役制度に関する調査

 防衛省が令和3年度に諸外国の予備役制度について民間企業に委託調査させたもの。報告内容はアメリカ、イギリス、フランスの三か国の予備役制度について。

 

 内容については下記リンク先を参照されたい。

 

諸外国軍隊の予備役制度に関する調査

https://www.mod.go.jp/j/approach/hyouka/yosan_shikko/2022/2022_oversea.pdf

 

https://www.mod.go.jp/j/approach/hyouka/yosan_shikko/index.html

 

 委託費用として約670万円も掛けているが、その割には正直言って内容が薄いような気がする。予備役制度をまともに運用できている国と言えば、上記の他にイスラエルや北欧諸国、ポーランドウクライナの領土防衛軍等も挙げられるだろうが、そこら辺も調査の対象として欲しかった。委託先の株式会社現代文化研究所はトヨタ自動車系列の自動車関係専門シンクタンクらしいが、一般競争入札とはいえ応札条件で安全保障系のシンクタンク・コンサルに縛るとか出来なかったのだろうか。

 

 とは言え、上記三か国の予備役制度について、訓練、招集、動員、待遇等、一通り記載されているので私のような外国語が苦手な人間にとっては有難いものである。

 

 一読して驚くのが米軍予備役・州兵に対する補償の厚さ。これは自衛隊だけでなく英仏両軍と比較しても手厚いものである。但し、日本固有の事情として重要となってくるのは予備自衛官等の待遇向上だけでなく雇用企業に対する配慮であろう。というのも、米英仏においては予備役軍人が解雇規制等によって法律で保護されていたり、予備役制度に対する社会的理解が浸透しているなど、訓練・招集と本業を両立させるための環境が整っている。

 

 一方で、我が国の予備自衛官制度は社会的理解が進んでいるとはいえず、また法律上はあくまで副業という扱いになる為、雇用企業の理解が無ければ予備自衛官等になるのも難しいという状況である。そのため、予備自衛官等の待遇の向上については雇用企業のメリットにもなる(例えば訓練招集でパソコン技能を学べたり本業で活用できる各種資格・免許を取得できる課程を設置する等)という着眼が必要だろう。